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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【758】幸寿 霧島山麓天然酵母仕込み 鹿児島限定 棚田米純米酒(こうじゅ)【鹿児島】

2012.4.4 17:07
熊本県葦北郡津奈木町 亀萬酒造(製造元)
熊本県葦北郡津奈木町 亀萬酒造(製造元)

【日本酒研究会月例会 全6回の①】

 酒好きが月1度、M居酒屋に集い、さまざまな酒を飲みながら、勝手な感想を言い合う日本酒研究会。名は大層なものだが、実態は単なる飲み会。全国のさまざまな酒を飲んでいるうち、「かなりの数の県の酒を飲んできた。よ~し、このイキオイで、全都道府県の酒を飲んでみようじゃないか」と盛り上がった。

 で、47都道府県すべてに酒蔵があるのかどうか調べてみた。その結果、鹿児島県だけに酒蔵が無いことが分かった。う~む、全国制覇とは46都道府県の酒を飲むことか。イマイチ釈然としなかったが、わたくしたちは、銘柄はともあれ、46都道府県の酒を飲み、「やったああ」と気炎を上げたものだった。3~4年前のことである。

 ところが、である。先だって偶然、ある酒屋さんのホームページを見ていたら、「47都道府県のお酒を取り揃えています」とのキャッチコピーを目にした。ん?46都道府県じゃないのか? 頭の中をハテナマークが駆け巡る。

 すぐ、酒屋さんに電話をかけ、疑問を投げ掛けた。「はい、たしかに鹿児島県には酒蔵はございません。でも鹿児島県の酒はあるんです」。分からない。どういう意味なのだろうか。再質問に酒屋さんはこう答えた。「鹿児島県のコメ、鹿児島県の水、鹿児島県の酵母を使い、熊本県の酒蔵でつくっているんですよ」。なあるほど。よ~し、その酒を飲んでみようじゃないか。その酒を「鹿児島県の酒」として、47都道府県の酒を全部飲んだことにしようじゃないか。

 M居酒屋の店主にすぐ指令を出した。「次の研究会月例会までに『幸寿』を用意してくれ」と。鹿児島の酒は無いものとばっかりおもっていた店主もさすがに驚いたとみえ、受話器の声はかなり興奮していた。こうして、今回の研究会のトップバターに「幸寿」が登場した。

 H 「お~し、47番目の酒だああ。これで空白区が埋まったぞ」

 酒蛙「あっ、いいね。おいしいね」

 I 「酸味がありますね」

 J 「うん、この酸味がいいね」

 酒蛙「旨みと甘みと酸がきて、すっとキレる。旨みがありながら、すっきり感があるお酒だ。なかなかいい。食中酒に最適だ」

 J 「鹿児島の人たちは、自分の県だけに地酒が無いのを気にしているんだろうな」

 H 「確かに。俺が鹿児島に行ったとき、酒がなぜないんだ?と聞いたら、地元の同業者は答えられずモゴモゴ言ってた。気にしていたんだろうな。この酒は、さらっとした飲み口だ」

 店主「悪くありませんね。引っ掛からず、すっと入る。すいすい飲める。いい酒ですね」

 J 「やわらかい飲み口だ」

 酒蛙「酵母も鹿児島。こだわっているね。余韻にすこし苦みがある」

 J 「料理の邪魔をしない。飲み飽きしない。まさに食中酒」

 酒蛙「肩のラベルに書かれている『鹿児島限定』の意味は何なんだろう。コメ、水、酵母も鹿児島産に限定している、ということなんだろうな」

 みんな「そうでしょうね」

 初めて飲んだ“鹿児島の酒”。正直に言って飲む前は、あまり期待をしていなかった。しかし、飲んでみると、すっきりした酒ながら、旨みと甘みと酸のバランスが良い、メリハリのあるお酒。いくらでも飲める、食中酒に最適なお酒だった。侮ってごめんね、と酒に謝りたい。

 この酒瓶の裏ラベルには、次のようなことが書かれている。

 「このお酒幸寿は幸田の棚田米(ヒノヒカリ)で作りました『鹿児島県初の日本酒』です。真心込めた素晴らしい栗野の味をお召し上がりください。『幸寿』の『幸』は幸田の『幸』せの田んぼから作られた米からできたもので『寿』は初酒の門出を祝うということで名付けました。ひや、または、冷たくしてお召し上がりください」

 この酒の原料米「ヒノヒカリ」は、宮崎県総合農業試験場が1979年、母「黄金晴」、父「コシヒカリ」を交配し育成、1990年に品種登録された、良食味で知られる飯米用品種で、水稲品種の中では全国3位の作付面積。

 酒瓶の表ラベルの右下に「酒を作る会」のクレジットが入っている。地元の人によると、

栗野町(2005年3月22日、吉松町と栗野町が合併し現在、湧水町)の酒販組合の組合員5人が「鹿児島県の日本酒が無いので、棚田米でつくろう」と会を結成。行政や商工会と一緒に、酒づくりに取り組んだ、という。

 コメは、日本棚田100選に認定されている地元「幸田の棚田」で採れた「ヒノヒカリ」。水は、これまた日本名水100選に認定されている「丸池」の湧水。そして酵母は、「幸田の棚田」から採取した土から分離した酵母と、丸ごと鹿児島。この“オール鹿児島”の原材料で、熊本県の亀萬酒造に酒をつくってもらった。こうしてできたのが「幸寿」。この酒づくりには東京農業大学が技術協力した。

 熊本県の醸造元といっても熊本県南に位置しており、鹿児島県北の湧水町とは近く。“鹿児島の酒”と言ってもおかしくはない。

 棚田米で酒を作る会を後押しした栗野町は2000年度、「活力のあるまちづくり」の人づくり部門で自治大臣表彰を受けた。総務省のホームページに、表彰の概要が掲載されているので、以下に転載する。

 「取組の概要

1 棚田米のブランド化

 栗野町の幸田地区には、昔ながらの棚田が残っており、町では、年々衰退する農業の活性化と情報発信を目指し、全国の関係市町村による『棚田サミット』に参加したり、棚田を利用した町おこしとして田植えや稲刈りを体験したりする棚田産直交流を実施し、都市部との交流を図っている。

 棚田でできるお米は、『栗野町幸田 棚田米』としてブランド化し、 取引先デパート等で販売するほか、県内外で開催される物産展等にも出品しPRを行っている。棚田米のブランド化は、 農家の生産意欲の向上のほか、貴重な棚田の保全につながっている。

2 棚田米を使用した酒づくり

 米だけではイメージ的に東北に勝てないということで、平成8(1996)年4月に行政、生産者、小売店が一体となり『棚田米で酒をつくる会』を発足させた。棚田米と日本名水百選の『丸池湧水』と棚田から採取した土から分離した酵母菌を原料とした日本酒づくりに取り組み、鹿児島県初の日本酒『幸寿』の商品化に成功している。また、第2弾として、赤米と焼酎麹を使用した赤色の日本酒『朱粋』の製造・販売も行っている。行政が中心となり、日本酒を町の特産品として幅広くPRすることにより、全国への情報発信が図られ、町のイメージアップにつながっている」

 湧水町のホームページを開き、「特産品」のボタンをクリックすると、焼酎・日本酒の写真に「幸寿」の瓶が写っている。「幸寿」は、鹿児島の特産品になっているのだ。地元の人たちは「地元の人たちが飲むのはやはり焼酎。『幸寿』は観光客の方々がよくお買い求めになられます」と話している。

酒蛙

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