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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【900】鯉川 特別純米 黒(こいかわ)【山形】

2012.9.25 18:36
山形県東田川郡庄内町 鯉川酒造
山形県東田川郡庄内町 鯉川酒造

 夕食をとるため、というか、酒を飲むため、近くのA居酒屋へ。この居酒屋は、料理がおいしく、とりわけ刺身は抜群。いつも刺身を楽しみにして注文する。酒は、10種類ほどしか置いておらず、ほとんど同じ顔ぶれだが、ときどき新しい酒を入れる。それを飲むのがまた楽しみだ。

 店に入り冷蔵庫を見ると「鯉川 特別純米 黒」が鎮座していた。存在感のあるラベル。初めて見るラベルだ。店主に聞いたら「なじみの酒屋さんから薦められたんです。出荷数量がずいぶん少ないお酒のようです」。

 しかし、客の反応がイマイチということで店主は残念そう。「酒蛙さん、味わってみてください。その感想を参考にお客さんに、このお酒を薦めますから」と店主。こりゃ、責任重大だ。わたくし、鯉川酒造から一銭もいただいていないが、成り行きで、A居酒屋での、鯉川の宣伝企画を担うこととなった。

 まず、喉をうるおすため生ビール。ここは、エビスがレギュラーなので、エビスファンのわたくしにとってはうれしい限りだ。次に、「鯉川」を冷酒でいただいてみる。

 「旨いっ!」。おもわず声に出た。やや辛口で、甘みもすこし。香りは控えめ。余韻は辛み。ちゃんと旨みがあり、酸はやや遅れてきて、尾を引く。旨辛の合体。中でも辛みが前に出る。とろり感がある半面、すっきり感もある。香りは抑えられている。きれいなお酒。これは、良いではないか。なのに、客の反応がイマイチとは??? これは、店主の薦め方が悪いに違いない。

 続いて、ぬる燗で飲んでみる。冷酒のときと比べ、甘みがずいぶん出てくる。旨みも出てくる。酸味も出てくる。辛みはやや奥に引っ込むが、温度が下がってくると、辛みが再び顔を出してくる。

 以上のようなことを店主に話したら、「良かったあ」と店主はニコニコ顔。「今度、酒蛙さんが言ったことをお客さんに伝え、このお酒を飲んでもらいます」。さっきまでの地自信無げな表情とはうって変わって、明るい表情になっていた。

 さて、非常に良い酒だったが、ラベルでのスペック表示は「酒造好適米100%使用、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、精米歩合50%」だけ。使用米の品種も、酒度も酸度もアミノ酸度も非開示だ。酒度、酸度、アミノ酸度は別に表示の必要はないが(数値と実際飲んだときの感覚とでは乖離がある場合が多いから)、使用米の品種は明らかにしてもらいたいものだ。

 この非開示主義について裏ラベルは、

「今回は新酒です。

数値は先入観になるので

あえて記載しません。

楽しく飲んでいただきたく

          蔵元」

と堂々と開き直っている。

これほど開き直られるとあっぱれ、というしかないが、数値を隠し、さあどうぞ、となると、飲み手はなんだか口頭試問を受けているみたいで、心地よくはない。

 それにしても精米歩合50%とはすごい。大吟醸並みの精米歩合ではないか。それを「特別純米」で売り出すとは、ここの蔵元さんは、相当な意思の持ち主とおもわれる。その意思は、ラベルの口上にもつながるのだろう。

酒蛙