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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【1512】天界 純米 芳醇 超辛 生酒(てんかい)【島根】

2014.3.31 17:49
島根県安来市 天界酒造
島根県安来市 天界酒造

【SN居酒屋にて 全8回の①】

 なじみのH居酒屋の店主と飲みに出た。彼とは店の定休日に年1回くらい、一緒に飲み歩いている。わたくしが「B居酒屋に行こう」と言ったら、彼は「Bは、やだ。小学校の同級生がママをやっているSN居酒屋にしましょう」と逆提案。酒の仕入れなどはいっさいママがやっているという。面白そうなので、SN居酒屋に行くことにした。

 酒メニューの一番最初を見て仰天、腰を抜かした。「天界」の名が燦然と輝いているではないか。「天界」は以前、2回飲んだことがあり、なかなかいい酒だったが、蔵は2006年11月30日に廃業した。その酒が、亡霊のように、いまここにある。2002年醸造年度(2002年7月~2003年6月の間につくられた酒)という。

 「なぜこの酒が、ここにあるの?」。わたくしは勢い込んで聞く。ママが答えていわく「酒を仕入れるため酒屋さんの冷蔵庫に入ったら、偶然、この酒が冷蔵庫の奥に隠れていたのを見つけたの。で、酒屋さんに『この酒、何なの?』と聞いても、酒屋さんは『この酒、どんな酒か分からない』って言うの。今の代の酒屋さんは、『天界』という名も、蔵が廃業したことも知らなかったんでしょうね。ということで、あたしが引き取った、というわけ」。興味深い話だ。

 造られてから約11年間も低温熟成されているので、酒は黄色く色づいている。ラベルもすっかり黄ばんでいる。酒メニューはママの手書きで、「酒度+8、酸度1.9、とろっと感と酸の融合のバランスがいい」と書かれている。「とろっと感」はおそらく、約11年間熟成させた結果だろう。さて、興味津々でいただいてみる。

 H 「上立ち香が、醤油みたいだ」

 ママ「もろみみたいな香りでしょ? でも暴れん坊じゃないわよ」

 酒蛙「熟成香が立つね。古酒風味があるが、それほど強烈じゃないな」

 H 「もろみの香りだ。多少色づいているね」

 酒蛙「酸が出てくる」

 H 「すごく丸いタッチだ」

 酒蛙「すっきりした飲み口だ。余韻に辛みがある」

 H 「ラベルに『超辛』とあるけど、辛口には感じない」

 酒蛙「旨みが適度。酒メニューに『とろっと感がある』と書いているけど、とろり丸み感があまりないな」

 H 「おとなしい古酒だ」

 酒蛙「酸が立ち、なかなか旨い。それにしても、ここで『天界』と出会うなんて、奇跡だああ」

 H 「果実酒っぽい。旨いなあ」

 酒蛙「うん、甘ったるくない」

 約11年間低温熟成された酒から新酒時の酒質をイメージするのはかなり難しいが、おそらくは、辛口でクセが無くすっきりした飲み口の酒だったのではないだろうか。そして酸もあるから、飲み飽きしない、食中酒にかなり適した酒だったのではないだろうか。それがいま、やや丸いおとなしい酒にかわっている。歳月を経て、人間に丸みが出た大人、というイメージのお酒だった。

 それにしても、Hがこの店を提案しなければ、この酒とは巡り合えなかった。人との出会いもそうだが、酒との出会いにも“物語”がある。

 辛うじて読み取れる裏ラベルには「原料米 五百万石、精米歩合 65%、限定本数 1163本」と書かれている。限定本数とはすごい。1桁まで出荷本数が書かれた酒なんて、今でもそうざらにはない。

 わたくし、以前、「天界」を飲んだことがある、と前述したが、そのときのメモが残っているので、以下に掲載する。

【天界 吟醸】(五百万石、精米歩合55%)2005年11月22日、O居酒屋で飲む。

 きれいな酒、澄み切った酒。嫌なにおいなどは一切無い。いわゆる淡麗辛口。バランスがとれている。飲み始めの酒として良い。食べ物を邪魔しない酒。

【天界 純米大吟醸 山田錦】(精米歩合45%)2006年7月31日、酒屋で買って飲む。

 含み香が極めて華やか。かなり旨い。そして酸味も十分感じられ、メリハリがある。濃いめの味で、引き締まった旨さ。やや甘口にも感じるが、引き締まった味なので、甘みは気にならない。きれいに仕上がった、バランスのとれた酒。

酒蛙