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文化

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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【2437】百黙 純米大吟醸(ひゃくもく)【兵庫】

2016.6.2 18:21
兵庫県神戸市東灘区 菊正宗酒造
兵庫県神戸市東灘区 菊正宗酒造

【H居酒屋にて 全2回の①】

 会社から帰宅し、普段着に着替え歩いて近くのH居酒屋へ。このパターンがかれこれ10年くらい続いている。こうも続くと、非日常ではなく日常化し、自宅のような気がしてくる。

 今回、店の暖簾をくぐったら、店主が「常連のSさんから、お酒をいただきました。テイスティングをしてほしいとのことです」とまず言った。よ~し、じゃ、その酒から飲もう。実は、別の酒を飲むつもりで来たのだが、そのような要望があれば、当然、そちらが優先だ。

 ラベルを見る。「百黙」。知らないなあ。そう口に出したら、すかさず店主が言った。「菊正宗さんとこの新しいお酒です」。キクマサ(菊正宗)といえば、生酛本醸造。蕎麦屋でこいつの燗酒を飲むのが、わたくしの一番の贅沢。身体全体がヨロコビに打ち震える。しかし、キクマサ生酛本醸造の燗酒は、かなりドスンとくる。強い酸と辛みと旨みのコラボレーションは、この世のものとはおもえない味わい。

 2年ほど前に出版された清酒に関するムック本の編集者から、冷酒ベスト5、燗酒ベスト5を挙げてほしい、と頼まれ、燗酒ナンバー1はためらわず「菊正宗 生酛 本醸造」を挙げたほど、わたくしは好きだ。しかし、前述したように、かなりドスンとくるし、酸と辛みと旨みが強い、相当な個性派。万人向けとはいかない。今回の酒も、きっとそのあたりが狙い目の酒かな、と飲む前に推察する。それはともかく、まずは冷酒でいただいてみる。

 酒蛙「やわらかい。キクマサのようにガツンとこないな」

 店主「旨い。しっかりとした味わい」

 酒蛙「旨みと酸があるが、あまり重く感じない。甘みも適度。全然、キクマサらしくないよぉ~~!!! おとなしい酒だ」

 店主「ふつうに飲みやすい。香りは無い」

 酒蛙「うん、香りは抑えている。やさしい香りがほのかにある。そして、すっとキレる」

 店主「さっぱりして飲みやすい」

 酒蛙「甘み・旨み・酸・辛みが、いずれも適度。とんがっていない。個性的じゃない」

 客 「すっと体に入っていき飲みやすい。日本酒が苦手な人や女性にもいいかもしれない」

 酒蛙「そうだね。キクマサとは真逆のお酒だ。しかし、完成度が高いのは間違いない」

 店主「うん、間違いない」

 次に、ぬる燗にしていただいてみる。温度はちょうど40℃。

 店主「甘い」

 酒蛙「甘みがふくよかに広がる。厚みが出てきた」

 店主「酸が出てきて、辛みがちょっと。きれいな燗酒だ」

 酒蛙「甘みが一番出ているね。次に酸と辛み。う~ん、やっぱりキクマサらしくないなあ。おとなしい。でも、バランスがいい」

 目隠しテストをすれば、まず間違いなく菊正宗酒造の酒とは誰もおもわないだろう。「百黙」は、いわゆるキクマサとは真逆のお酒だった。

 瓶の裏ラベルの表示は「兵庫県三木市吉川 嘉納会 特A地区産山田錦100%使用、精米歩合39%」。特Aの山田錦を39%まで削った、非常にぜいたくなお酒だ。

 瓶の裏ラベルは、この酒のコンセプトについて、以下のように説明している。

「良質な酒米と宮水に恵まれ、日本酒の聖地とも言われる兵庫県。『灘の酒造り』の長い伝統の中から、いま世界に発信する新しい酒『百黙』が生まれました。これまでになかった『凛として豊潤』な味わい。『食』の喜びに寄り添い、和洋を問わぬ様々な料理との新鮮な出会いを演出します」

 また、蔵のホームページでは、「百黙」のニュースリリース資料も見ることができる。「百黙」のニュースリリースは以下の通りだ。

「菊正宗130年ぶり 新ブランド『百黙』発表

 菊正宗酒造株式会社(本社 神戸市東灘区、社長 嘉納毅人)は、創業357年を迎え、また菊正宗ブランドが130年を経た今春、新ブランド『百黙』を立ち上げることとなりました。『百黙』は、兵庫県三木市吉川特A地区で契約栽培された山田錦を100%使用した純米大吟醸酒。凛とした切れ味の中に調和のとれた豊かな潤いをもち、ひとくち口に含めば、旨みの余韻が料理の味わいをさらに引き出します。和洋を問わぬ様々な料理とのマリアージュをお楽しみいただけます。 また、この新ブランドは、アートディレクター佐藤卓氏が監修を行いました」

 裏ラベルとニュースリリースを見れば、この「百黙」は、どんな料理にも合わせられることを主眼につくられたことが分かる。

「百黙」の由来について産経新聞サイト(2016.3.11)は「ブランド名は、寡黙な人が発する一言は鋭く的を射て、感銘を与えるという意味の『百黙一言』に由来しており、同社は『寡黙で内面の強さがある人は多くを語らない。そんな強さを持って、菊正宗に負けないブランドになってほしい』と期待している」としている。

 また、「百黙」のコンセプトについて朝日新聞デジタル(2016.3.11)は「嘉納逸人副社長は『食の多様化が進み菊正宗ではカバーしきれない分野が増えてきた。女性ら新たな顧客をつかみたい』と話す」。日本経済新聞サイト(2016.3.25)は「嘉納毅人社長は『すしや生魚に限らず、イタリアンやフレンチなど多様な料理と一緒に味わってもらえるよう、提案型の営業をしていく』としている」と書いている。

酒蛙

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