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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【2615】いなば鶴 純米 生酛 強力 無濾過生原酒(いなばつる ごうりき)【鳥取】

2016.11.16 22:46
鳥取県鳥取市 中川酒造
鳥取県鳥取市 中川酒造

 なじみのH居酒屋の店主から電話が入った。「新しいお酒が入りましたので、来てください」。H居酒屋では、お客さまが酒を選びやすいように、と酒メニューに1行コメントを添えている。酒名だけのメニューだと、よっぽど詳しいお客さまでなければ、それがどんな酒なのか分からないからだ。そのコメントを書くのがわたくしの係。新しい酒が入れば、上記のように店主から電話がかかってくる。

 今回入ったのは「いなば鶴 純米 生酛 強力 無濾過生原酒」だった。つい2日前、近くのM居酒屋で「いなば鶴 純米大吟醸 強力」を飲んだばかり。けっしてメジャーとはいえない「いなば鶴」を同時期に近所同士のM居酒屋とH居酒屋が入れるとは驚きだ。

 M居酒屋で「いなば鶴」を飲んだとき、わたくしにとって初蔵酒だった。H居酒屋の店主は、わたくしに初蔵酒を飲ませよう、と入れたのだが、2日遅れにたいそう悔しがり「マジすか? たった2日違い。悔しいなあ」を連発していた。が、M居酒屋とは違う酒。わたくしは、どっちの酒もうれしい。さて、冷酒でいただいてみる。

 酒蛙「おおおっ、旨い。甘旨酸っぱい」

 店主「味が濃い」

 酒蛙「上立ち香も含み香も、もろみ風味がする」

 店主「おおおっ、いいね」

 酒蛙「どっしり、濃醇だ。しかし後味がすっきりしており、キレが良い。素朴な味わいで、実に力強い」

 店主「これ、好きですね。かなり力強い」

 酒蛙「文句なく旨い」

 次に、ぬる燗にしていただいてみる。湯煎で温度は40℃ちょうど。

 酒蛙「おおおっ、辛みが出てくる。旨みもかなりふくらむ」

 店主「おーっ、旨い、すごい」

 酒蛙「強い。味がめちゃくちゃ強くなる。そして、すごく辛い」

 店主「かなり効きますね。甘みがくる」

 酒蛙「酸がきて、辛みと苦みがすごい」

 店主「かなり重い。すごいね」

 酒蛙「かなりすごいね」

 店主「辛みが立っている。酸もくる」

 酒蛙「アルコールみたいな風味が強い。エンディングは苦み。これほどすごくなるとはおもわなかった」

 かなり辛く、かなり強い味。いささか飲みにくい。2人、つい以下のようなつぶやきを。

 店主「この酒、常温の方がいいかも」

 酒蛙「冷酒の方がいいかも」

 店主「そうですね」

 ところが、である。30℃くらい(日向燗)くらいに温度が下がったら俄然、味が変わったのだ。

 酒蛙「すげぇ酸が出てきた。これは旨い」

 店主「たしかに。辛みが来て、酸と甘みが出てきた」

 酒蛙「こりゃすごい。30℃がベスト温度じゃないか!」

 店主「うん、この温度、飲みやすいですね」

 酒蛙「こりゃ旨い。余韻は酸だ。うぉーーーーっ!この酸がいいっ! 大好きだあああ」

 30℃がベスト温度の超旨酒だった。わたくしたちは飲んでいる間、「すごい」を連発。語彙不足を露呈しながら「すごい」を繰り返し続けた。ほかに表現の仕方があるのではないか、とおもいつつも、つい「すごい」。

 瓶の裏ラベルの表示は「原料米 全量『強力』、精米歩合75%」。また、表ラベルには「生酛造りとは」と題し、以下のような解説を載せている。「酒造りの原点ともいえる酒母の製造方法です。昔ながらの時間と手間(酛摺り作業など)を掛け、蔵内自然発生の乳酸菌により健全な酵母菌を増殖させます。先人たちの知恵と技術で蘇らせた強力米の新しい世界をお楽しみください」

 この酒の箱に入っていた蔵のしおりは、「強力」について、以下のように説明している。

「『強力』は大正時代に鳥取県立農業試験場により在来種から選抜育成され、特産酒米として一時期には六千余町歩も生産されていました。

 強力米の歴史は古く、『山田錦』の祖先と言われている優良酒米『雄町』の更なるルーツであるという説もあります。

 昭和20年代の食糧難の時代、反当たりの収穫量の少なさ、尋常でない背丈、大粒の為倒伏の危険といった理由から、特産酒米『強力』は姿を消しました。(中略)

 鳥取大学農学部で、永年、少量だけ育種、保存されていた種籾から、やっと、わずかではありましたが、単一品種醸造ができる量まで収穫することができました。

 低タンパクな米質を重視するため、低収穫量を覚悟の上で減農薬・低窒素肥料などを心がけ、見事、酒米『強力』は復活しました。その強力米と清らかな水を使った地酒がここに蘇りました」

酒蛙

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