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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【3596】磐城壽 純米 海の男酒カップ(いわきことぶき)【山形県】

2018.10.20 17:04
山形県長井市 鈴木酒造店長井蔵
山形県長井市 鈴木酒造店長井蔵

【父の日プレゼント 全8回の①】

 父の日プレゼントとして、二男からカップ酒の詰め合わせが贈られてきた。味ノマチダヤがプロデュースしたカップ酒だ。ここ数年の恒例で、わたくしは非常に楽しみにしている。むろん、酒の種類が重複することはない。二男はぬかりなく、過去に贈ったものをチェックしているようだ。よってわたくしは毎年、違うカップを楽しんでいる。

 今回の詰め合わせから最初に選んだのは「磐城壽 純米 海の男酒カップ」だった。テイスティング結果を書く前に、まず、「磐城壽」を醸している鈴木酒造店について紹介する。わたくしは、あの東日本大震災の2カ月前に福島県浪江町の蔵を訪問した。だから、思い入れが非常に強い蔵なのだ。
「磐城壽」の鈴木酒造店は福島県浪江町にあったが、東日本大震災に伴う津波で蔵が流され、しかも原発事故で避難を余儀なくされた。が、山形県長井市で再起、再び酒づくりを始めた。

 そのいきさつについて、2011年12月31日のタイムスタンプがある河北新報の記事を以下に貼り付ける。

 「東日本大震災で全壊した福島県浪江町の酒蔵『鈴木酒造店』が、山形県長井市で廃業した酒造施設を引き継いで酒造りを再開、今月下旬から新酒『磐城壽(いわきことぶき)』を出荷している。杜氏(とうじ)で専務の鈴木大介さん(38)は『福島から避難中の人に酒を酌み交わしてもらい、少しでもふるさとを感じてほしい』と願っている。

 鈴木酒造店は浪江町請戸地区で江戸時代末期から150年以上続く老舗。磐城壽も創業期からの銘酒だ。港のすぐ近くに立地し、漁師が大漁を祝い、冷えた体を温める酒として親しまれてきた。

 3月11日。津波を受け、店舗や酒蔵など約3,300平方メートルが全壊した。歴代の醸造技術をまとめた資料、伝来の酵母も流失した。しかも福島第1原発から約7キロの警戒区域内。口にこそ出さないが、家族全員が再起を半ば諦めていた。

 震災から3週間後、再起の兆しが見えた。『検査で預かっていた酵母がある』。福島県会津若松市の研究機関からの吉報だった。『歴史が生き残っていた。いける』。山形県米沢市で父母ら家族と避難生活を送っていた鈴木さんは確信した。

 5月、酒造りができる空き物件を探し始めた鈴木さんに、今度は山形県工業技術センターから知らせが届く。後継者がいなくなった長井市の東洋酒造が3月に廃業し、設備が空いているという。交渉の末、10月下旬に譲り受け、11月初めに仕込み開始にこぎ着けた。
 再開に当たり、酵母とともに重要な水と酒米は変えた。『地元の味を地元の人に飲んでもらうのが、酒造りの喜び。無理に今までの味を再現しようとせず、地元の素材を生かそうと思った。(今は家族で住む)長井が地元なのだから』と鈴木さん。原料に使ったのは比較的硬度が低い長井の水と、山形産の酒米『出羽燦々(さんさん)』だった。

 酒造りは、7月に福島県南会津町の酒造会社を借りて行って以来。約1カ月後、出来上がりを味わった。『とろりとしてコメのうま味がしっかりある。本来の磐城壽らしい』。予想外に以前の味が再現されていた。

 震災から9カ月半。『ここまで来られたのは奇跡。支えてくれた方々のおかげだ』と鈴木さん。いつか帰れる日のため、請戸の土地や酒造業の免許は残している。『「その日が来るまで長井で新しい磐城壽の歴史を培う』。鈴木さんは一升瓶を抱えて前向きに語った。

 磐城壽は福島県内の酒店などで購入できる。連絡先は鈴木酒造店0238(88)2224。」

 さて、「磐城壽 純米 海の男酒カップ」をいただいてみる。まずは冷酒で。さっぱり、すっきり、軽快感があり、シャープ感のある飲み口。酸が非常に立っている。酸は苦みと辛みを伴う。甘みと旨みは奥にある。余韻は苦み。ややセメダイン香(わたくしが好きなベンゼン環芳香族系の芳香)がする。酸が立ち、さっぱりしているので、全く飲み飽きしない。まさに食中酒とおもった。

 次に、ぬる燗(40℃)でいただいてみる。アタックがやわらかくなった。ふくよかになった。冷酒のときより、すこし甘みが出てきた。非常に飲みやすい。これまた食中酒に最適なお酒だ。

 ラベルの表示は「アルコール分15度、原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)、精米歩合65%、酒造好適米100%使用」にとどまり、使用米の品種名が非開示なのは残念だ。

 酒名「磐城壽」の由来について、蔵のホームページは「酒銘の『磐城壽』の、『磐城』は地名、『壽』は皆で祝う『壽ぐ(ことほぐ)』とされ、 皆が永く健康的に楽しめる様、酒造りでもその由来が反映されています」とのこと。

 鈴木酒造店はいまも山形県長井市の蔵で酒を造っている。しかし、このカップ酒のラベルは、船の操縦に不可欠なコンパスをデザインしたもの。そして酒名の副題が「海の男酒カップ」。ふるさと浪江町に帰りたい、という熱く切ないおもいがビンビン伝わってくる。

 この酒を売っている味ノマチダヤ(東京都中野区)のサイトは、この酒を「震災にて移転を余儀なくされた『磐城寿』。しばらく中断していたカップ酒復活! いまだ福島には帰れませんが心は浪江町の海の男純米カップです」と紹介している。

酒蛙

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