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日本酒津々浦々

日本全国津々浦々のさまざまな日本酒のコラムです。

【3532】正雪 純米吟醸 GENTTEN(しょうせつ)【静岡県】

2018.8.24 22:35
静岡県静岡市 神沢川酒造場
静岡県静岡市 神沢川酒造場

【Z料理店にて 全4回の③】

 夕方、ふらりと近所のZ料理店へ。ここの店主は、わたくしが飲んだことがないだろう酒を用意してくれるから、月に1回は訪れ、その厚意に報いなければならない。店主としても、わたくしに餌を与え、定期的に訪れるように、との深慮遠謀。それが見え見えなのが楽しい。

「繁桝 純米吟醸 生々 切り絵ラベル」「津島屋 外伝 純米大吟醸 契約栽培米山田錦 四十二才の春 生酒」と飲み進め、3番目にいただいたのは「正雪 純米吟醸 GENTTEN」だった。

「正雪」は飲む機会が多い酒で、今回を含め、当連載で11種類を取り上げている。すっきりとした淡麗辛口酒という印象を持っているが、これはどうか。

 やわらか、ふくよか。とろみ感がある。吟醸香がけっこう華やか。以上が第一印象だった。甘みと旨みが出ており、後半は辛みと苦み。余韻は苦み。酸はあまり出てこない。さらり淡麗なイメージが強かった「正雪」のイメージとはまったく違う。むしろ真逆。おおいに戸惑った。

 ラベルの表示は「アルコール分15度以上16度未満、原材料名 米(国産)米こうじ(国産米) 五百万石100%使用、精米歩合50%」。

 ラベルの黒字に、濃い灰色の文字がびっしり埋められ、意匠っぽく仕上げている。しかし、読めない。その中で、一番大きなフォントを使った見出しとみられるのが「どこまでも美しい余韻を残し、新時代へと駆け抜ける」だった。

 この小さな読めない字は、実はこの酒のコンセプトを述べており、重要な文章。読みやすい白地に黒抜き文字で読ませればいいのに。せっかくのコンセプトが、これでは伝わらない。デザイナーのセンスを疑う。

 さて、もうひとつ、首をかしげざるを得ないことがある。それは酒名の副題「GENTTEN」。読めない。英語には、このような単語はない。じゃ、ローマ字読みか? “げんってん”。読めない。この謎を調べるべく、読みにくいラベルデザインの小文字を目で追ってみた。すこし大きなフォントで「原点回帰」という文字を読みとれた。「GENTTEN」は「原点」のことか。原点だとしたら、「T」が1個多いんじゃないか? どうも、このラベルを手掛けたデザイナーはぶっ飛んでいる方のようだ。

 以前、蔵のホームページは、酒名「正雪」の由来について「歌川広重の浮世絵にも描かれた東海道五十三次16番目の宿場町として広く知られる由比。今でも古い家屋が軒を連ね、昔の宿場町の風情を求め訪れる人々で賑わう。そして、『正雪』という酒の由来にもなった由井正雪の生家があることでも知られている」と説明していた。(いま、蔵のホームページは開けない)

 ウィキペディアなどによると、正雪は現在の静岡県静岡市清水区由比に生まれた江戸時代初期の軍学者で、江戸に開いた道場は評判を呼び、3,000人もの門下生を抱えた、という。慶安4年(1651年)、幕府政策への批判と浪人の救済を掲げ、浪人を集めてクーデターを計画したが、仲間の裏切りで未遂に終わった。そして追っ手に囲まれ、自刃した、という。この「慶安の変」は、4代将軍徳川家綱以降の政治が、武断政策から文治主義へ政策を転換することになったきっかけとなり、幕府政策上、重要な事件として位置づけられている、という。

 360年以上前の歴史的人物の名が「酒名」に使われている、ということは、由井正雪は今もなお地元の英雄であることを物語っている、といえそうだ。

酒蛙

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