メニュー 閉じる メニュー
文化

文化

ニッポンのGOHAN

全国の新聞社スタッフの食べ歩きブログ。グルメ情報誌に載っていない隠れた郷土料理や意外な日常食、おもしろい食べ方などが満載!

やんごとなき衣笠丼

2007.11.22 10:00 共同通信
親子丼のように見みえるが…
親子丼のように見みえるが…

 東京では、町のそば屋の丼物といえば、誰がなんといっても「天丼、カツ丼、親子丼」が御三家である。結束の固いどんぶり三兄弟。そば屋の献立の中では価格面からも他の追従を許さない地位を築いている。価格面で疑問を持つ客がいれば「上」と「並」に分かれて献立間格差を緩衝し、誰もが注文しやすい環境作りにも配慮する。実に心優しい気遣いのある丼物なのである。

 御三家とは言い過ぎではないか。そば屋でカツ丼とはいかがなものか。ここは一つリーズナブルな玉子丼を加えて欲しい。カレー丼がないのはおかしい。といった異論を挟む向きがあるかもしれない。そこで近くのそば屋に行って確かめた。献立の携帯写真を見てほしい。すきあらばと次の御三家入りを狙うカレー丼が脇に控えているが、三兄弟は堂々としている。押しも押されもせぬ見事な「どんぶり御三家」ぶりではないか。

 と、食い物エッセイの大御所、ショージ君的な発想で考えていたが、京都のそば屋は違っていた。

 京都出張時に案内してもらったのは「本家尾張屋」さん。ウェブページによれば「やんごとなき御方より召されて、山鳥の尾張の国より都にまいりしは、室町時代花の御所の時なり」と家譜に伝えるとあった。寛正六年(西暦1465年)の創業は応仁の乱の前年だという。創業五百三十余年の歴史はグルメレポーターなら「そば屋の日本史やぁ!」と叫ぶに違いない。

 メニューも「御献立」ではなく「御志ながき」である。こんなところにも京都的な、やんごとなきフィーリングがある。丼物のラインアップも見なれぬ丼が多い。京都ではどんぶり御三家の結束も崩れていた。

kinugasa_tokyo.jpg

 きつね丼  683円

 玉子丼   683円

 衣笠丼   735円

 木の葉丼  788円

 親子丼   893円

 芋かけ丼  998円
 天ぷら丼 1,260円

 文字からではどんな丼物か見当のつかない「衣笠丼」を注文した。運ばれてきた衣笠丼は青いネギを散らした卵とじ丼。とじた卵の中には、たんざくに切って甘辛いだし汁を含ませた、厚みがありながらもフカフカした油揚げが隠れている。京都では油揚げのことを「お揚げさん」というそうだ。お揚げさんと九条ネギの卵とじ丼が「衣笠丼」の正体だった。どうやら「きつね丼」を卵でとじると「衣笠丼」になるらしい。「玉子丼」にきざみ海苔を散らせば「木の葉丼」になると聞いた。きつねが衣笠に、玉子は木の葉に化けるのである。

 その昔、京の都でやんごとなきお方が真夏に雪景色が見たいと言ったとき、衣笠山に白い絹をかけて雪景色にした故事があるという。卵でとじた雪景色のイメージが衣笠丼の由来らしい。油揚げの卵とじとはいえ、やんごとない「衣笠丼」である。似合わないこと、この上ないが、高貴なお方になった気分で味わった。

 余談だが、知人が注文した「たぬきそば」は、油揚げが入ったあんかけそばだった。東京ならたぬきそばを頼んで、あんかけそばが出て来たら、絶対に店員が注文を間違えたと思うだろう。京都の食文化も奥は深い。

 

 

江戸っ子ヒロ>
住所  :京都市中京区車屋町通二条下る
電話番号:075-231-3446
営業時間:9:00~19:00(蕎麦処11:00~19:00)

最新記事