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文化

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ニッポンのGOHAN

全国の新聞社スタッフの食べ歩きブログ。グルメ情報誌に載っていない隠れた郷土料理や意外な日常食、おもしろい食べ方などが満載!

ほんのり縄文の味、榧太郎生

2007.12.20 10:00 共同通信
一見すると、甘納豆のようだけど、、、
一見すると、甘納豆のようだけど、、、

 名張の近く、三重県の奥深くから「榧太郎生」が送られてきた。素朴な田舎のお菓子である。

 三年前、津市で勤務していたころ、支局の隣の喫茶店で初めて出合った。

 喫茶店のママさんが「これ太郎生のお菓子、召し上がれ」といって杉の香りいっぱいの小さな箱を差し出した。中にはピーナッツを砂糖でくるんだような豆菓子風のお菓子が入っていた。

 ポリポリとかむうちに砂糖の甘さとカヤの実のほろにがさが口の中で溶け出した。なかなか上品な味だった。食べ出すとこれがやめられない。お茶にもビールにも合う、そう思った。カヤの実は縄文時代、トチの実などとともにわれわれの祖先の飢えを満たした山の食料だったが、まさか、この時代にカヤの実を食べるとは思わなかった。

 ママさんは、今度はその箱に入っていた一枚のしおりを差し出した。「私だけの特産品」と題した一文を読んで、なにやら感情がほとばしる思いとなった。
「私が嫁いで来た家はもとは造り酒屋で、裏庭に樹齢350年といわれる榧の木があって、秋のかかりの9月中頃になるとよく熟した実が落ち始めます。・・・」

 姑が榧の実でつくった手作りのお菓子を杜氏さんや蔵人さんに出していて、その姑がなくなった後に、嫁の久子さんが作り始めたお菓子であることが説明されてあった。

kayataro_package_yoko.jpg 数日後、僕は「榧太郎生」をつくっている久子さんに会いに行った。津市から西に山あいの道を2時間近く走ったところに太郎生の村はあった。太郎生は今は合併で津市に編入されているが、れっきとした地名である。地名の由来は書くと長くなるので省略する。
「ぽたっ! と榧の美の落ちる音で目を覚まし、秋の訪れを感じるとともに、姑の小さな背中を思い出しながら作っている『私だけの特産品』」と書く久子さんは表情、話しぶりともに情感たっぷりの鄙にはまれな女性だった。裏庭に案内されて、実が落ちた後の大きな榧の木の下で、姑の思い出話となった。

 実を拾い集め、皮むき、晒し、水洗い、天日干し、殻割り、渋取り、炭火炒り・・・、「榧太郎生」がつくられるまでの手間は限りない。今では、久子さんでなければつくれない、否つくろうとしないだろうお菓子が「榧太郎生」なのだった。

「このあたりの家はみんな榧の木を植えています、深く広く根を張るので地震や山崩れの時、家を守ってくれるのです」。山の生活は辛いことが多いはずである。そんな愚痴めいた会話はなかった。榧太郎生にはそんなさわやかな秋の恵みを久子さんにいただいた思い出がある。

 

 

紫竹庵人>
住所  :三重県一志郡美杉村太郎生
電話番号:059-273-0002
オススメ:榧太郎生(かやたろう) 秋~春の限定品です

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