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ニッポンのGOHAN

全国の新聞社スタッフの食べ歩きブログ。グルメ情報誌に載っていない隠れた郷土料理や意外な日常食、おもしろい食べ方などが満載!

京情緒あふれる焼き鳥

2009.5.18 10:00 共同通信
「とり新」の焼き鳥
「とり新」の焼き鳥

 名作といわれる映画には、いつまでも心に残る印象的なラストシーンが多い。古い作品になるが、列車の窓から身を乗り出すキャサリン・ヘプバーンに、ロッサノ・ブラッツィがプレゼントを手渡そうとするのは「旅情」。列車のスピードが上がり、中身のブローチを掲げてみせるシーンが感動を呼んだ。雨の中でオードリー・ヘプバーンとジョージ・ペパードが猫を挟んで抱き合う「ティファニーで朝食を」。去りゆく馬上のガンマンを呼ぶ少年の声がワイオミングの山にこだまするのは「シェーン」。

 映画に比べると、小説というのはラストシーンより書き出しの方が有名だ。「国境の長いトンネルを抜けると…」「山路を登りながら、こう考えた。智に働けば角が立つ、情に棹させば流される…」。ここらあたりは、題名を言う必要もない。もっと古くは「祇園精舎の鐘の声」「いずれの御時にか」というのもある。読んでないけど書き出しだけは知っているというのもあるはずだ。

 京都の祇園、四条通から縄手通りを北に向かったところに、鳥鍋の店「鳥新」がある。この店の名前が司馬遼太郎の名作「竜馬が行く」に登場する。しかし、これは書き出しではなく、ラストシーン。坂本竜馬が中岡慎太郎とともに襲撃を受ける直前、知り合いの少年にシャモを買いに行かせている。買いに行かせる先が「四条小橋の鳥新」とはっきりと書かれている。

 現在の「鳥新」は四条・縄手通りを150メートルほど北へ行ったところなので、小説の場所とは少しずれているが、その辺りの事情は、店のご主人が説明してくれるかもしれない。

 今回紹介したいのは、実はこの店ではない。「鳥新」に隣接というか、建物の一部なのだが、南側に焼き鳥の店がある。「鳥」の字を平仮名に置き換えて「とり新」という。

 すぐそばに歌人・吉井勇の歌碑がある。「かにかくに 祇園は恋し 寝(ぬ)るときも 枕の下を 水の流るる」。その情緒豊かな白川がすぐ前を流れ、春には満開の桜や枝垂れ柳がそぞろ歩きの人たちを店に誘う。

 ガラス戸から中をのぞいて入ってみる。こざっぱりした店内の左手半分がカウンター。そこに座ると、鳥を焼いているのは、鉢巻きを巻いたオジサンじゃなく、妙齢の女性ただ一人。ここのご主人だというから、ちょっと驚く。

 串を頼むと、出てくるのは吟味され尽くした鳥肉の数々。おまけに手羽は、やっかいな骨を抜いた上に、手を汚さないように銀紙を巻き付けるという気の配りよう。とり皮は小さめで、東京・渋谷「鳥竹」の巨大なものを食べ慣れている私の目には、おやっと思うほどだが、これがなかなか小粋な味で、店の風情とぴったり。

 さらにメニューをよく見ると「ししとり」だの「とりパラ」だの、ユニークな名前も並ぶが、これはまあ想像が付く。分かりにくいのが、仕上げ用に雑炊と並んで書かれている「まご丼」。初めての客は「これ、何」と必ず質問するそうだ。親子丼が鳥肉と玉子の組み合わせなのに対して、こちらは鳥肉をミンチにしてあるからだという。一瞬「なるほど」と思ったものの、よく考えれば、それがどうして孫なの?

 ここの"ごちそう"は、焼き鳥だけではない。若き女主人の話す言葉が、しっとりとした昔ながらの京都弁。ちょっと話し掛けてみてはどうだろう。観光客などは、ここでも京都気分を味わえることになる。

実は、もう一人、ここには"スター"がいる。時々手伝いに顔を見せる弟さん。あの京都検定1級を20代で早々にものにしたほどの京都通。およそ京都に関することで知らないことはないらしい。この人、昼間には、この同じ店で親子丼だけを作って評判になっている。情報誌に紹介もされ、行列のできる状態なので、「ああ、あの店か」とピンとくる人もいるかもしれない。

 さて、焼き鳥とビールでほろ酔いになったところで、季節もよし、白川沿いに辰巳稲荷へ、さらに保存地区へと足を向ければ、その日の焼き鳥コースは完成する。

yakitori2.com

「とり新」の外観

 

 

小松美知雄(共同通信)>
住所  :京都市東山区祇園縄手四条上ル
電話番号:075-541-4857
オススメ:焼き鳥は各種2本で525円 孫丼、雑炊、とり茶漬けなどは735円 ほかに「串いろいろコース」2100円、「白川コース」3150円など

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