「極楽」とは「衝撃」のことなり 鎌倉市の「ゴクラクカリー」【GOHAN特製原稿】


最近、鎌倉に何とも怪しげな「カリー屋」ができた…。今年の夏以降、鎌倉市在住の複数の知人から次々とそんな話を聞かされた。全国有数の観光地をざわつかせているカレーの正体を確かめようと、「ゴクラクカリー」という名のパキスタンカレー店を訪ねた。
鎌倉駅から「鎌倉の大仏」で知られる高徳院がある長谷を目指して約10分歩いた由比ガ浜通り沿いにその店はある。だが、店の看板が目に入った瞬間、衝撃で足が止まった。そこに描かれていたのは、仏様のありがたいお顔。ところが、その下には「鎌倉小仏」。加えて横には「恋でもなく 愛でもないのに なぜか 忘れられない」と記されていたのだ。
「怪しい…」。うなったまま、しばらく固まってしまったものの腹をくくって店へ。心の中の「リトルブッダ」ならぬ「リトル自分」は「やめた方がいい」と忠告していたが、食い気と好奇心が勝ってしまったのだ。
落ち着いた店内に入ると、看板の怪しさなどみじんも感じさせない店主の竹迫順平さんが仏様のような優しい笑顔で迎えてくれた。食事のメニューは昼夜ともに、店名にちなんだ「極楽セット」のみ。「カリー」にサラダとチャイがついて、1000円(税込み)は、観光地の鎌倉ではありがたい価格設定だ。

見た目はよく煮込まれた普通のチキンカレーだが、口にするとほどなくして衝撃が改めておそってきた。初めはふんだんに使われたスパイスの香りが口に広がる。その後に、じんわりと辛さがやってくる。そのバランスが絶妙で、素晴らしくおいしい。
パキスタンでは人をもてなす際に作るという、このカレーはタマネギとトマト、鶏肉に「十数種類のスパイス」を加え、のべ15時間近く煮込む。驚くべきは水を一切使わず、味付けは塩のみということだ。
会社員時代に横浜市の「サリサリカリー」でこのカレーと出会い、衝撃を受けた竹迫さんは会社を辞めて、弟子入り。約2年間の修行を経て独立した。
看板と店名についても聞く。看板は大学院で文化人類学を学んだ竹迫さんが描いた。店名は「食べるときぐらい嫌なことを忘れて楽しく食べてほしい」という思いを込めたとのことだ。少し感激していたら、竹迫さんがにやりと笑って「1品だけなので、私が〝極めて楽〟というのもありますね」。
やっぱり怪しい―。
電話番号:0467(61)1807