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文化

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【4560】喜久盛 純米 にごり酒 生酒 ビクトル投げからの膝十字固め(きくざかり)【岩手県】

2021.5.4 20:24
岩手県北上市 喜久盛酒造
岩手県北上市 喜久盛酒造

【H居酒屋にて 全4回の③】

 なじみのH居酒屋の店主からショートメールが届いた。「新しいお酒が入りました。いつでもいらっしゃい」。わたくしはH居酒屋に“1行コメント”付きの酒メニューを作ってあげている。新しい酒が入ったということは、メニューを更新しなければならない。こりゃ、急いで行かねば、とおっとり刀で暖簾をくぐった。

「常山」「琥泉」と飲み進め、3番目にいただいたのは、「喜久盛 純米 にごり酒 生酒 ビクトル投げからの膝十字固め」だった。出た!喜久盛!!! 相変わらずだ、オヌシやるのお!!! この蔵は奇想天外な酒名・ラベル「タクシードライバー」(当連載【706】と【2356】)で、全国の酒造業界および日本酒ファンを、あっと言わせた。その記憶はいまだ鮮烈に残っている。その後も「シャムロック」(当連載【2210】)などキワモノを世に送ってきた。しかし、見てくれのあやしさとは裏腹に、味はいたってまとも。そのバランスというかアンバランスは、なかなかにチャーミングでお茶目である。

 今回の酒名・ラベルは、キワモノ度がさらにパワーアップだ。酒名について、瓶の裏ラベルは「『ビクトル投げからの膝十字固め』とは弊社の蔵元が総合格闘技をしていた際に試合で勝利を収めた技の名称です」と親切に解説している。そうでもしなければ、99.99%の飲み手は「なんのこっちゃ」だ。さて、いただいてみる。

 やわらかな口当たりで、いかにもうすにごり酒。大人しくて静かなたたずまい。甘旨酸っぱい味わいで、軽快感がある。酒名・ラベルとは裏腹に、いたってまとも。モダンタイプのライトボディ~ミディアムボディ辺りのお酒だった。このラベルに、やさしいだのやわらかいだの、というテイスティングをするのもこっぱすかしい気持ちになるが、じっさいそうなのだから仕方がない。

「常山」「琥泉」そして今回の「喜久盛」といずれもモダンタイプという同じカテゴリーのお酒だが、中でも「喜久盛」に一番繊細感をおぼえるのは、なんということだ、と唸るしかない。

 その1週間後、尋常ならざる嗅覚の持ち主の酒友ちーたんに同席を願い、再度味わってみた。

 酒蛙「上立ち香はほとんどしない。甘旨酸っぱい味わい。含み香にマスカットを感じる」
 ちーたん「うん、マスカットは分かる。苦みと渋みの効果で、マスカットよりマスカットらしい香りだ」
 酒蛙「やわらかな酸がいい。後味の辛みもいい。まったく飲み飽きしないお酒だ」

 瓶の裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(岩手県産)米麹(岩手県産米)、精米歩合55%、アルコール分15度(原酒)、日本酒度+1、酸度2.1、アミノ酸度1.2、上槽日 令和3年1月7日、製造年月(瓶詰め日)令和3年2月3日、醸造責任者 高橋藤一(南部杜氏)、使用酵母 きょうかい6号」にとどまり、使用米の品種名が非開示なのは残念だ。

 この蔵の主銘柄「喜久盛」の由来について、日本の名酒事典は「明治27年創業。創業時『凱旋』の銘柄で販売していたが、3代目藤村久喜が戦後『自分が逆立ちしてでも盛り上げる』という意味も込めて『喜久盛』と改名」と説明している。3代目蔵元さんも、今の蔵元さんもかなりお茶目だ。これは“血”なんだろうな。

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