メニュー 閉じる メニュー
文化

文化

【4356】貴 特別純米 ふかまり(たか)【山口県】

2020.10.3 17:10
山口県宇部市 永山本家酒造場
山口県宇部市 永山本家酒造場

【B居酒屋にて 全5回の②】

 久しぶりに酒友Tと飲んだ。Tは日本酒に対し勉強熱心で、わたくしと飲みながら、さまざまな質問をし学習していった。この飲み会をわたくしたちは「今さら聞けない日本酒講座」と称し、断続的に数回開いた。たとえば「山廃とは?」「生酛とは?」という基本的なことは知っているようできちんと言えないものを、飲みながらわたくしが分かりやすく説明する、という内容だ。

 今回、最初に選んだのは「出雲富士 夏雲 特別純米 生原酒」。続いていただいたのは「貴 特別純米 ふかまり」だった。同名のお酒は当連載【4319】で取り上げている。同じ種類の酒は重複掲載しない方針だが、今回のは一升瓶、【4319】はカップ酒。ラベルのデザインも違う。また、双方、製品にした部分が、あらばしりなのか、中取りなのか、責めなのか、はたまたブレンドなのか、さらには一升瓶もカップ酒も同じなのか、まったく分からないため、今回の酒も取り上げることにした。

 T 「甘みを感じる」
 酒蛙「酸は奥にいる感じ。まるい旨みは出ているが、出過ぎておらず適度感があり、好ましい」
 T 「辛い」
 酒蛙「たしかに辛みが続く。しかし、旨みとのバランスが良い」
 T 「水の味がする」
 酒蛙「分かるような気がする。すなわち、ややライトなボディだ」
 T 「後味がすごくいい」
 酒蛙「旨みのある淡麗系。温度がすこし上がって来たら酸が姿をあらわしてきた」
 T 「このお酒、おいしいよ」
 酒蛙「軽めでバランスがとれ、酸も出ているので、食中酒に最適だね。」

 この酒について、瓶の裏ラベルは、「一杯目は、ひやで。二杯目は、ぬる燗で。」と紹介している。ここで注目すべきは、「ひやで」と平仮名で書いていること。飲み手や居酒屋の95%以上は、冷蔵庫で冷やしたお酒を「冷や」と言っている。しかし、冷蔵庫が普及してきたのは昭和30年代後半から。つまり、酒を冷やす文化は、わずか60年くらいの歴史しかないのだ。それ以前の江戸時代、明治、大正、昭和30年代後半までという長い期間、「燗酒」と「燗酒でないもの」の2種類しかなかった。そして、「燗酒でないもの」を「冷や」と言って来た。燗酒の熱さに対し、熱くないから「冷や」というわけだ。

 しかし、この「燗酒でないもの」の表現が難しい。冷蔵庫が無い時代は、燗酒と冷やだけで良かったが、冷蔵庫が出てきてからは微妙になる。前述したように、95%以上の居酒屋と飲み手は、冷蔵庫で冷やした酒を「冷や」といい、室内保管しているものを「常温」といっている。しかし、冬の室温は5℃の場合があるし、夏の室温は40℃に上がることもある。「常温」には幅があり過ぎる。そこで日本酒業界では「常温」を20℃と規定しているが、世間一般に浸透しているかとなれば、クエスチョンだ。

 今回の酒の瓶のラベルの表示で「ひや」と書いたのは、「冷蔵庫で冷やした『冷や』じゃないよ、俗にいう常温のことだからね」という意思を伝えるため、「冷や」ではなく「ひや」と書いたのだ。このような表記をする蔵はいくつかあって、わたくしは好ましいと思っている。

 ということで、酒の温度を表現するケースを以下に挙げてみる。

(1)燗酒、常温(室温管理)、冷や(冷蔵庫管理)
(2)燗酒、常温(20℃)、冷酒(冷蔵庫管理)
(3)燗酒、ひや(室温管理または20℃)、冷酒(冷蔵庫管理)

 現状は95%が(1)であるが、上記の理由から、わたくしは(2)もしくは(3)が好ましいとおもっているが、文化は多数派が歴史を動かし歴史を作っていくものなので、やがて(1)が100%になる可能性がある。

 本筋から逸れた話が長すぎた。本題に戻す。

 蔵のホームページはこの酒を以下のように紹介している。「【味わい】米の綺麗な味わいとコクの調和 【オススメ料理】秋から春先にかけての味覚  10月1日「日本酒の日」に解禁するお酒です。秋刀魚やキノコなど秋の味覚とともに冬の鍋料理などとも楽しめるお酒をと、旨みの出やすい『山田錦』を贅沢に使用した『ふかまり』です。1杯目はひや(常温)で、2杯目からはぬる燗(40℃)がオススメです。

 さて、同名のカップ酒【4319】を飲んだ感想は以下の通り。

「味わい甘旨酸っぱく、ジューシー。まさに酒造業界トレンドのモダン的な味だ。旨みが良く出ているのに、キレが非常に良く、すぱっとキレる。余韻は辛・苦み。この辛・苦みが長い。このため、甘旨みが十分出ているのにくどくはならず好ましい。香りは抑られており穏やか。かなりふくよかで、熟感のある丸い味わい」

 今回のテイスティング結果とだいぶ違う。今回の酒は淡麗に感じ、【4319】の酒はふくよかに感じた。体調などで自分の舌の調子が、違っていた結果なのだろうか。2つの酒の中身が全く同じだとしたら、正直に言って自分の舌に対し自信喪失だ。

 裏ラベルのスペック表示は「アルコール分15度、精米歩合60%、原材料名 米(国産)米麹(国産米)、原料米 山田錦100%、2018酒米収穫年、製造年月2019.11」。このほか裏ラベルには「世界を見据え、地に根ざし個を磨く」という気宇壮大な口上が書かれている。

 酒屋さんのサイトを見ると、この「ふかまり」は、これまでの「ひやおろし」の名を変えたものとのこと。考えてみれば、「ひやおろし」とは、夏の間涼しい場所で熟成させ、秋のひんやりした風が吹くころに出荷するのが「ひやおろし」という言葉の意味だ。ところが近年、過当競争のため、8月のお盆過ぎ当たりの、ギンギン酷暑のころに「ひやおろし」と銘打った熟成未満の酒を出す蔵がずいぶん増えてきた。これは「ひやおろし」の意味を完全に逸脱している。そこで、時期にこだわらず、「ひやおろし」のような熟成をさせた酒、ということで「ふかまり」というネーミングにしたのだそうだ。なるほど。蔵元さんの考え・メッセージに大いに共感する。

 酒名「貴」の由来について、ホームページを見てみたが、説明はなかった。ただ、ホームページに掲載されている、蔵の年表を見たら「2001年(平成13年) 永山貴博が杜氏になる、2002年(平成14年) 「貴」の発売開始・全国販売の開始」という記述があった。これらから、「貴」という酒名は、永山貴博さん(現・代表取締役兼杜氏)が杜氏に就任したとき、自分の名の一文字を使った酒を開発、新商品にしたことがうかがえる。熱い心意気が込められた酒名なのである。

関連記事 一覧へ