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文化

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【4290】東の麓 純米吟醸 つや姫 なんどでも ℃(あずまのふもと)【山形県】

2020.8.7 17:30
山形県南陽市 東の麓酒造
山形県南陽市 東の麓酒造

【E居酒屋にて 全9回の②】

 コロナ禍による非常事態宣言が解除された当地では、居酒屋が徐々に営業を再開してきている。なじみのE居酒屋も同様だ。この店は、酒の品揃えのセンスがなかなか良いので気に入っている。久しぶりに暖簾をくぐった。

 最初に冷蔵庫から取り出したのは「花邑 純米吟醸 出羽燦々 生酒」。続いて選んだのは「東の麓 純米吟醸 つや姫 なんどでも ℃」。東の麓酒造のお酒は当連載でこれまで、「東の麓」2種類、「天弓」を3種類取り上げている。

 E居酒屋は、今回のお酒を室温管理している。なぜ?というわたくしの問いに、女将の返答がふるっていた。「どの温度帯でも良いお酒なんだそうです。だから室温」。真ん中を取った、ということか。おもわず笑ってしまった。さて、室温管理のお酒をいただいてみる。

 やわらかで、やさしい口当たり。これが第一印象。吟醸香穏やか。刺激的・攻撃的な部分は一切無い。ケレンも無い。酸がじわじわ出てきて、いい感じ。余韻は軽い辛みと苦み。これもいい。飲んでいるうちに、辛みが次第に前に出てくる。旨みと酸とのバランスが良い。甘からず辛からず。重からず軽からず。全くクセが無く、味わいと口当たりがともに平均的なお酒だとおもった。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。「日本酒は、飲み方の温度によって様々な風味がたのしめます。古来からその温度ごとに名前がつけられ、親しまれてきました。このようなたのしみ方は、日本酒ならでは。『つや姫なんどでも』は日本酒入門のためのお酒です」

 また、裏ラベルには、「つや姫なんどでも」は、東北芸術工科大学の学生と、山形県南陽市の東の麓酒造との共同開発商品です」とも書かれている。同大とは新ブランド「天弓」の開発でも一緒に取り組んだ。これについて、日本酒の総合サイト「SAKETIMES」は、以下のように紹介している。

「東の麓酒造の創業は1896年(明治29年)。江戸時代に米沢藩宮内地区の領主より特権を授かっていた在郷商人が営んでいた酒造部門を、遠藤家6代目・遠藤栄次が引き継ぐ形で始まりました。現在の生産石高は約500石と小さな蔵で、代表銘柄名は『東の麓』です。
 そんな小さな酒蔵・東の麓酒造が、大学生とタッグを組み、一躍話題となったブランドが『つや姫 なんどでも』です。2012年(平成24年)3月に発売しました。一度見たら忘れないインパクトを持つデザインは、東北芸術工科大学の学生たちとコラボレーションにより作られました。
 新藤栄一製造部長が同大学の教授と呑んだ時に『うちのラベルをデザインしてくれないか』と持ちかけたのがきっかけです。結果、グラフィックデザイン学科と企画構想学科の学生18人のプロジェクトチームが立ち上がりました。
 最初はラベルデザインだけでしたが、味のコンセプト、ネーミング、PRすべてを学生が企画することになったそうです。蔵から出した条件は「お米は『つや姫』を使うこと」だけでした。
 20歳になったばかりの日本酒の知識の全くない学生達から、常識に捉われない自由な意見が出されました。会議で煮詰める中で、つや姫の冷めても美味しいという長所を生かし、『何℃でも美味しい』という学生が出したコンセプトが決まり、摂氏の『℃』と温度帯バーを模したラベルが完成したのです。蔵も、コンセプトに合ったお酒を造り上げました。
 初年度は600㎏タンク1本分、27BYはその倍で一升瓶換算約1500本という少量生産です。初年度から学生や若い人が買いやすいように、県内のスーパーやコンビニで発売され、好評を得ました」

 瓶のラベルに「なんどでもうれしい なんどでもたのしい みんなでもおいしい」と書かれているのが面白い。「なんどでもうれしい」は「何度でもうれしい」「何℃でもうれしい」を掛けたもの。「なんどでもたのしい」も「何度でもたのしい」「何℃でもたのしい」を掛けたものだ。

 したがってラベルの「℃」は、温度の単位。ラベルには、以下のように酒温の呼び方を記している。「5℃ゆきびえ 10℃はなびえ 15℃すずびえ 30℃ひなたかん 35℃ひとはだかん 40℃ぬるかん 45℃じょうかん 50℃あつかん 55℃とびきりかん」。

 ここで不可思議なのは酒温の呼び方に「20℃常温」が入っていないことだ。酒温「20℃常温」は、最も大事で、最も意味深いものだが、なぜ除外したのかは分からない。もしかして、「常温」という意味を、現在の居酒屋や飲み手が「室温」と思っているケースが99%なので、トラブルを防止するため、あえて除外したもかもしれない。

 ラベルのスペック表示は「原料米 つや姫100%使用、原材料名 米(山形県産)米麹(山形県産米)、精米歩合58%、アルコール分15度、製造年月20.3」。使用米の「つや姫」は、山形県立農業試験場庄内支場(現・山形県農業総合研究センター水田農業試験場)が1998年、母「山形70号」と父「東北164号」を交配。育成と選抜を繰り返し品種を固定。2008年に山形県で奨励品種に指定した。徹底した栽培管理が行われ、山形県産「つや姫」は食味検査で、最高の特Aに格付けされている超人気米だ。

 また、ラベルに〈みんなでもサイズ〉と書かれているが、全く意味が分からない。これも学生さんたちが考えたのだろうが、考え過ぎた結果、通じない結果となった。

 酒名・蔵名「東の麓」の由来について、日本の名酒事典は「蔵が県の南部、吾妻連峰の麓に広がる置賜盆地の北端に位置することによる」、コトバンクは「蔵が吾妻連峰の麓に広がる置賜(おきたま)盆地に位置することに由来」と説明している。すなわち、「吾妻」(あづま)を「東」(あずま)に置き換えて酒名にしたのだった。

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