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のら猫万華鏡

個性的な演技と独特の存在感でファンの支持を得ている、個性派女優・洞口依子さんのコラムです。テーマは映画、ドラマをはじめ音楽やファッションなど。映画評論も手がける洞口さんが、独自の視点で読者に語りかけます。

「夏といえばカレー」~前編~ 

2017.8.18 16:04
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 夏といえばカレー。
 とはよく聞くけれど、いったい誰が言い出したのだろう。
 これはどこかのファミレスが夏のカレーフェアを始めたのがきっかけなのではないだろうか、とふと思う。
 

 ちょっと調べてみたら、その発祥は34年前。
 1983年にロイヤルホストで始めた「夏のカレーフェア」だった。
 〝暑い国のカレーで元気に夏を過ごしてほしい〟という思いから始まった。


 確かに、暑い国のカレーは夏バテした体にピリっとスパイス効果で元気になりそうな気がする。
 スパイスの効能はきっとなにか体によいに違いない。


 かといって、私はそんなにカレー好きでもない。
 最近外国人観光客に人気のCoCo壱番屋のカレーも食べたことがない。
 そしてどちらかといえば、刺激物が苦手。
 でも、スパイスは大好き。
 世の中には、私の知らないスパイスがまだまだたくさんある。
 

 『世界の料理ショー』という海外のテレビ番組が70年代にあった。
 「スティーブ!」と裏方に声をかけるコメディータッチな料理番組で、当時を知る人なら懐かしいだろう。
 聞いたこともないスパイスの名前をあの番組で知ったという人もいる。


 私もこの番組でカルダモンやシナモンを知り、高校生になるとインド風ミルクティーをこさえるのにはまった。当時スパイスや茶葉を買うために、渋谷の井の頭線ガード下にあったシブヤ食品か青山の紀伊国屋あたりまで足を運んだ。
 

 ちょっと食欲がない時など、胡椒をふりかけると食欲がそそられる。
 眠れないときに、あたためたミルクにシナモンを入れると気分が鎮静される。 
 スパイスの効能は不思議。しかも魅惑的だ。


 そんな私にカレーの奥深さを教えてくれたのは、我がウクレレユニット「パイティティ」のパートナー、映像作家の石田英範氏だった。
 パイティティ公式サイト(http://www.paititi.tv)でも「聖なるカレーの館」というエッセイを不定期掲載しているが、小さな頃からカレーを口にしている自他共に認める「カレー大王・マハラジャ」だ。
 

 ある日、逗子の農園で珍しいバナナの葉を見つけた私とマハラジャ一行。
 マハラジャは早速このバナナの葉がどうしても欲しいと言い出した。
 交渉してわけてもらうと、農園の人が訳知りに「カレー作るの? 最近はやっているみたいね」と話してきた。
 その途端、隣のマハラジャの顔が黄金色に輝きだし満面の笑みで「それはですね、南インドのミールスというカレーなのです」としゃべり出した。


 マハラジャの話は長い。長いが話の動線が面白いのでつい耳を傾けて聞いてしまう。
 「僕はカレーが大好きでして。好きで自分でもよく作るのですが、そのミールスにこのバナナの葉がどうしても必要でして。お皿として使うんですね。ミールスは、このバナナの葉の上にカレーを乗せるんです。沖縄ではよく見かけますがなかなかなくて、ずっと探し続けていたのです。今ではインターネットで買えますが、大変高額でしかも新鮮ではありません。貴重なものをわけてくださり本当にありがとうございます」
 やはり長かったが、ミールスに使うバナナの葉は大変貴重だということはよく理解できた。


 車のトランクに乗り切らないほど大きなバナナの葉を積んだのは人生初めての経験だった。そしてマハラジャは自分の背丈より大きいバナナの葉を手に小躍りしながら帰って行った。


 私を満足させたカレーに出会った。それは、あのマハラジャが語っていた南インドのミールスと呼ばれるものだった。


 ミールスとは、南インドの定食屋などで提供される、バナナの葉に載せて出てくる定食のようなカレーのことを言う。


 インドに行ったことがないので、詳しいことはわからないが、アジアの国にあるインド人街などではそれに近いものは食べたことがある。
 バナナの葉の上に提供される数種類のカレーを、皆手で食べていた。
 私も見よう見まねで手食してみたが、あれこれ自分で混ぜ合わせて食べるそれはとても不思議な香りと味がした。


 東京でもそれが食べられる店が何軒かある。
 バナナの葉の上に乗っていなくても、ターリーというお盆のようなものに数種類の小鉢に盛られたカレーが乗ってくる場合もある。

 
 ミールスの一皿は、ほんの一皿とはいえぬほど、よりどりみどりの食べ物が乗っかってくる。


 バナナの葉の上に、数種類の小鉢。
 小鉢には豆や野菜、肉(チキンやマトン)のカレーや南インドの野菜炒めや煮物の惣菜、不思議な味のチャトニと呼ばれる(ヒンドゥー語で舐めるという意味らしい)辛いソースなどが盛られている。


 数種類の小鉢には、ラッサムと呼ばれるインド風味噌汁のような酸味と辛味の効いたものや、サンバルというすりつぶした豆と野菜を煮込んだもの、ポリヤルというココナツ風味の野菜の炒め物など、その他、野菜のカレー、マトンやチキンのカレーなど、味も見た目も食感も異なるものが数種類ある。


 そしてライス。ワダという豆とハーブで素揚げしたドーナツのようなもの。全粒粉の薄焼きクレープのようなチャパティ。ぐるぐるデニッシュのようなロティと呼ばれるほのかに甘いパン。その上に豆をすりつぶし極薄にして焼いたパパドというクラッカー煎餅みたいなものが乗っている。


 さらには、甘いデザートも添えられている。
 それを手で少しずつ混ぜて食すのがミールスだ。
 

 インドカレーというと、小麦粉のナンというタンドール釜で焼いたパンにこってりした濃厚なバターチキンカレーというイメージがあるが、これは北インド地方のものだそうだ。
 

 暑い南インド地方のカレーは、ナンでは食べない。
 その代わり、ティファンと呼ばれる軽食が多い。
 薄焼きのチャパティやパロタ、そして米を食べるらしい。カレーもさらっとしている。暑いから地方だからだろうか。


 米はバスマティライスと呼ばれるパサパサの米がほとんどだ。
 これは日本の米よりも糖質が低いらしく、カレーの汁気を吸ってよく混ぜて食べるとなかなかうまい。
 そして、南インドカレーの特徴は、見た目もさることがら、なんといっても食欲をそそる摩訶不思議な香りだ。


 これは、テンパリングと呼ばれる調理工程で、油にスパイスの香りを移す手法によるものらしい。
 カレーは、カレーリーフと呼ばれる葉と、マスターシード、唐辛子を油に入れて炒める。
 これを最後にカレー鍋にジャッと入れて仕上げるのが南インドスタイルらしい。これによってより風味が増すそうだ。


 北ではこの工程は最初に行われると聞いた。
 最初と最後の違いは、南の方が香り付け重視だからだろうか。
 使うスパイスも多少異なるらしい。
 スパイスの効能も食欲増進、消化促進などなど、体に良さそうな効能ばかりである。そこへ、彩り豊かで味も食感も異なる数種類の食べ物が一緒に食べられるというお楽しみ付き。


 スパイスは私の好奇心を刺激し、今はやりの〝インスタ映え〟する写真を撮るのもそこそこに、速攻手が出てしまう。
 その摩訶不思議な香りと見た目にすっかりやられ、バリエーション豊かな鰹節をずらりと並べられた猫のような〝猫まっしぐら〟状態になるのである。


 つづく

スパイスの誘惑、彩り豊かなカレーたち
スパイスの誘惑、彩り豊かなカレーたち

 

洞口依子(どうぐち・よりこ)

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