【東京舞台さんぽ】「岸辺のアルバム」 多摩川水害の地、狛江を訪ねて


1974年9月、多摩川が台風で増水し、東京都狛江市の堤防が決壊して家屋19戸が濁流にのまれた。この多摩川水害は、山田太一さん原作、脚本の連続テレビドラマ「岸辺のアルバム」(77年放送)の題材になった。実際のニュース映像がドラマに取り入れられ、鮮烈な印象を与えた。作品ゆかりの地を訪ねた。(共同通信=藤原朋子)
主人公田島則子は不倫し、夫・謙作の勤務先は経営難に。崩壊しかけた一家が決壊で家を流失し、再生に向かう物語。

小田急線和泉多摩川駅の駅のホームに立っていた則子(八千草薫さん)の美しさに引かれた男性から電話がかかり、平和な家庭生活がほころび始める。当時の駅舎は建て替えられ、現在はモダンなデザインが目を引く。

ドラマには小田急線の鉄橋や川べりの風景が頻繁に登場した。駅から多摩川の河川敷まで徒歩で5分ほど。草地に立つ三角すい形の「多摩川決壊の碑」はこの地で起きた水害の恐ろしさを後世に伝える。堤防決壊の一因となった二ケ領宿河原堰は改築された。

整備された堤防に沿うように、一戸建てが立ち並び、水音が響きわたる中、水鳥が羽を休めていた。水害の後も、人々の暮らしがあることに安心感を覚える。

地元の酒店「籠屋秋元商店」の秋元賢社長(73)は水害時、多摩川を見に行き、投入された消波ブロックがあっという間に濁流にのまれるのを目撃したという。自衛隊の大型車両が行き来し「ものものしかった」と振り返る。一方で多摩川の存在が安らぎをもたらし、狛江の魅力だと語る。

当時の避難場所の一つが狛江第二中。ドラマで、ばらばらになった田島家の4人が久しぶりにそろったのがここという設定だ。校門横には「災害時集合場所」を示す黄色の看板が掲げられている。現在も地域の避難所として機能する。

【メモ】決壊の碑から1キロほど上流に、大小10本以上の松が集まる名所「五本松」がある。時代劇やドラマのロケ地として使われることも多い。
