【小堺一機の楽しみかけ流し #3】セリフの音、シビれる言葉 大好き、と聞こえる大嫌い

2023年03月17日
共同通信共同通信
連載第3回(題字は筆者直筆)
連載第3回(題字は筆者直筆)

 

 毎日「楽しいことばかりやっている」と言うタレント・小堺一機さんが見聞きしたことや、日々考えていることをつづる連載第3回。


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 「役ができているかできていないかは、セリフの音聞いてりゃ分かるんだよ」と勝新太郎さんはおっしゃっていた。

 仲代達矢さんは「最近の役者さんはどの役でも同じ音程でセリフをおっしゃる。僕は役によって音程を変えていました」と明かしてくださいました。ホーッと思って、何本か仲代さんの映画を見たら、本当にすべて違う発声と音程だった。

 わが師、萩本欽一“大将”もセリフについてこう言っていた。「字を読んでるよ! セリフになってない!」「『大嫌い』ってセリフを『大好きの音』で言ってごらん。お客さん、ゾクッとするよ。『大嫌い』が『大好き』に聞こえるから」「ケンカになりそうになってきたら、大体声が低くなってる。音程上げるとケンカにならない」「人に助言するときも、言い切りの語尾を上げるとキツイ伝わり方、しない」―。なるほど、芝居でも日常でも、“音”としての言葉の使い方は大事なんですね。

デビュー当時の筆者
20代の頃の筆者

 

 森繁久弥さんも有名な言葉を残していらっしゃいます。「セリフは歌え、歌は語れ!」。いい言葉です。僕も稚拙ながらミュージカルをやるときいつも思い出し、心しています。

 いいセリフといえば、昔、母に聞いた話を思い出します。母が学生の頃、電車に乗ってつり革につかまって立っていた時、急ブレーキか何かでふらついて体が回転し、そのまま前に座っていた紳士の膝に座ってしまった。真っ赤になって謝る母に、その紳士が言ったのは「どうぞごゆっくり」。車内は笑いに包まれたそうです。

 そういえば勝さんは若い頃、恋をしていた相手から「あぁ、(小説などの舞台で有名な)浜町岸をあんたと歩いているなんて、幕でも下りなきゃいいけど…」と言われてシビれたそうです。

 あっ、最後に僕が大将に言われてシビれた言葉を一つ。僕が本番であがってしまい、スベッた時。「小堺! 俺はあがらないやつ、信用しないから!」。涙が出ました。(タレント)

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 こさかい・かずき 1956年千葉県生まれ。84~2016年「ライオンのごきげんよう」などフジテレビ系昼のトーク番組を司会。同局系ドラマ「女神(テミス)の教室 リーガル青春白書」(1~3月期)出演。著書に「映画はボクのおもちゃ箱」。