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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(35) 「夢」 睡眠中に媚女の力で起きる

2008.11.22 17:31

 古代中国は呪(まじな)いがいろいろな機会に行われる社会でした。その社会では呪術(じゅじゅつ)的な力を発揮する人たちが活躍(かつやく)しました。

 「眉(び)」に「女」を加えた「媚(び)」もそういう人たちです。「眉」は眉飾(まゆかざ)りをつけた目のこと。「媚」は眉飾りをつけた巫女(みこ)さんのことです。戦争の際にはこの媚女(びじょ)をたがいの軍の先頭に何千人と並べて、眉飾りをつけた目の力で敵軍に呪術的な力を加えて攻撃(こうげき)しました。

漢字物語「夢」

 古代中国では、武器を使用した戦闘(せんとう)を始める前に、このような呪いの力で相手を倒(たお)すことをやったのです。巨大(きょだい)なにらめっこですね。この媚女は美しき魔女(まじょ)ですから、そこから「こびる」という意味となりました。

 戦争に負けると、負けたほうの媚女たちは一番最初にすべて殺されてしまいます。その殺されてしまう媚女を表している字が「蔑(べつ)」です。

 「蔑」は「sakuji35_1.gif(草カンムリ)」(本来の字形は「sakuji35_2.gif」)と横長の目「sakuji33.gif(ヨコメ)」と「伐(ばつ)」を合わせた字形です。「伐」は「人」に「戈(ほこ)」を加えた字で、人の首を戈で切る形です。「sakuji35_1.gif(草カンムリ)」と「sakuji33.gif(ヨコメ)」の部分は古代文字をみるとわかりますが、眉飾りをつけた目のこと。これは「媚女」のことです。その媚女を戈で殺している字が「蔑」なのです。そこから、相手を「ないがしろにする」意味となり、「軽蔑」「蔑視」の言葉が生まれました。

 「夢」の字形の「sakuji35_1.gif(草カンムリ)」と「sakuji33.gif(ヨコメ)」の部分も「媚女」のことです。それに「冖」と「夕」を加えた字が「夢」です。「冖」は巫女が座っている姿のことです。「夕」は夕方、つまり夜のことです。

 古代中国では「夢」は夜中の睡眠(すいみん)中に、媚女(巫女)が操作する呪いの力によって起きると考えられていたのです。

 「夢」の「夕」を「死」にした「薨(こう)」という字があります。位の高い人が「亡くなる」ことです。これは媚女の呪いの「夢魔」の力で死ぬことです。位の高い人は、夢魔の危険がいつもあったのでしょう。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

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