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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(55)「婦」 主婦が掃除する廟

2009.8.3 9:55

 「女」を含(ふく)む字の後は、「帚(そう)」の字について紹介(しょうかい)したいと思います。それは「女」に「帚」を加えた「婦」について、説明したいからなのです。

「婦」

 「帚」は「ほうき」のことですが、この「婦」には「帚を持つ女の人が家のごみを掃除(そうじ)する」というイメージがつきまとっています。後漢の人・許慎(きょしん)が紀元百年ころに書いた「説文解字(せつもんかいじ)」という有名な字書があります。それにも「婦」は「服なり。女の帚を持つに從(したが)ふ。灑掃(さいそう)するなり」とあります。「服なり」とは服従すること。「灑掃」はごみ取りの掃除をすることです。つまり服従する人、掃除をする人が「婦」だと言うのです。

 でも白川静さんの研究によると、これらはみな根拠(こんきょ)のない俗説(ぞくせつ)なのです。「帚」は木の先を細かく裂(さ)いた帚の形をしたものですが、これはごみ掃除の道具ではなく、香(かお)りをつけた酒を振(ふ)りかけて、家の祖先の霊を祭る廟(みたまや)を祓(はら)い清める行為(こうい)に使うものでした。その仕事に主婦として当たる者を「婦」と言ったのです。

 そして「掃除」の「掃」の「帚」も、お酒を振りかけ、先祖の霊を祭る廟の中を祓い清めるためのものです。それを「手」(手ヘン)に持って、廟を清める字が「掃」です。「掃除」の「除」も神様が天から降りてくる土地に「余」(取っ手のついた長い針)を刺して、悪い霊を祓い清める字です。「掃除」はもともとは祓い清める行為でした。

 最後は「帰」です。これは旧字の「歸」のほうが分かりやすいですが、「歸」の偏(へん)は「師」の偏と同じ字形の下に「止」を加えた形。「師」の偏と同形部分は戦いの際に携行する肉で、軍を守る霊的な力のあるものです。その下の「止」は足の形で「帰ること」です。

 つまり「帰」(歸)とは自軍を守ってくれた肉を「帚」で清めた廟にお供えし、無事の帰還(きかん)を先祖の霊に報告する儀式(ぎしき)のことでした。そこからすべての「かえる」意味となりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

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