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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(211)「始」 出産の無事を祈る

2012.9.6 14:52
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 「私利(しり) 私欲(しよく)」という言葉があります。自分だけの利益(りえき)を考え行動する欲望の意味です。この「私利」の「私」にも「利」にも「禾(か)」があります。

kanji211.gif

 「利」の「sakuji32_1_2.gif(刈のメを取る(リットウ)) (りっとう)」は「刃物(はもの)」のことで、「利」とは刃物で「禾」(穀物(こくもつ))を刈り取ることです。さらに「利」の古代文字を見ると牛などにひかせてすく「唐鋤(からすき)」という鋤でした。そのことは前回説明しました。

 では「私利」の「私」のほうはどんな文字でしょうか。実は、この「私」の「厶」の部分も「鋤」です。でも牛にひかせる唐鋤ではなく、「厶」は鍬(くわ)の形をした鋤です。

 この鍬の形をした鋤で「禾」(穀物)の田畑を耕作(こうさく)する人が「私」です。この「私」は私的な一家に従(したが)っている耕作者、奴隷(どれい)のような農民のことです。そこから「わたくし」の意味となりました。

 この鍬の形をした鋤「厶」に関係した漢字はたくさんあります。

 まず「台」から紹介しましょう。現在(げんざい)の「台」は、旧字(きゅうじ)の「臺(うてな)」(見晴らしのいい高い建物)の字の常用(じょうよう)漢字として使っていますが、これとは別に「台」という字がもともとありました。

 それは「厶」(鋤)に神様への祈(いの)りの言葉である祝詞(のりと)を入れる器「口」(サイ)を加えて、「厶」を清め、豊作(ほうさく)を神様に祈る農業の儀式(ぎしき)です。

 人の誕生(たんじょう)は作物の生産と同じようなものと考えられていて、受胎(じゅたい)(妊娠(にんしん))を願うときにも「厶」と、神様への祈りの言葉を入れる器「口」(サイ)を供(そな)えて祈りました。

 そこから「台」に体の一部を示(しめ)す「月」(肉づき)を加えた「胎」が「はらむ、みごもる」の意味となったのです。

 女性(じょせい)が、その「厶」(鋤)と神様への祈りの言葉を入れる器「口」(サイ)を持って出産の無事を祈ることを「始」と言いました。そのために出生のことを「始」と言い、「はじめる、はじまる、はじめ」の意味となったのです。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

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