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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(242)「質」 重要契約を二つの斧で刻む

2013.5.9 9:47

 人の権威(けんい)や力量を疑(うたが)って地位をくつがえそうとすることを「 鼎 (かなえ)の軽重を問う」と言います。昔、中国の楚(そ)の国の王が天下をとる野心を抱(いだ)き、周の王に王位の 象徴(しょうちょう)である九鼎(きゅうてい)の大きさと重さを問い、野心を暗示(あんじ)させたことからできた言葉です。

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 「九鼎」は九つの州から貢(みつ)がせた金で造(つく)った特別な鼎です。最初は 煮炊(にた)き用の青銅(せいどう)器だった鼎が、後にお祭り用にも使われるようになり、王室の宝器(ほうき)として権威のシンボルともなったのです。

 「 剤(ざい)」も鼎関係の漢字です。旧字「劑」の「 齊(せい)」の部分は、下部に「鼎」をふくむ形が元の字で、鼎のことでした。「 リットウ (りっとう)」(刀)で、その大切な鼎の側面に約束の文章を刻(きざ)むのです。だから「剤」は重要な契約(けいやく)を記したものが最初の意味です。

 後に「薬剤」など「くすり」の意味にもなりました。鼎には丸い円鼎(えんてい)と四角 方鼎(ほうてい)があり、「剤」は方鼎の鼎でした。

 「 質(しつ)」にある「貝」も「鼎」の省略(しょうりゃく)形です。上は二つの「 斤(きん)」( 斧(おの))です。重要な契約事項(じこう)を二つの斧で刻むのが「質」の元の意味。「 質剤(しつざい)」とは契約書のこと、古代中国の手形のことです。

 大切な契約書を改変してしまう行為(こうい)を表している文字もあります。

 「 弐(に)」はそんな文字です。その旧字「貳」は「弐」の下に「鼎」の省略形である「貝」を加えた形になっています。これは「鼎」に刻まれた文章を 戈(ほこ)で 削(けず)って改変してしまう文字です。それで「弐」(貳)が「ふたたび、ふたつ」の意味となったのです。 現在 (げんざい) では 逆(ぎゃく)に「二」の字を「三」などに改変されないように、「弐」を「二」の代わりに使っています。

 もう一つ、「 賊(ぞく)」も「鼎」を削ってしまう字です。「貝」(鼎)に「 戎 (じゅう)」を加えた字。「戎」は「戈」と「 干(たて)」を合わせた形で武器(ぶき)のことです。

 つまり「賊」は重要な契約や誓(ちか)いが刻まれた「鼎」を「戈」「干」の武器で削り傷(きず)つける文字です。そこから「そこなう、わるもの」の意味となりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの漢字「質」は小学5年生で学ぶ漢字です。

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