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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(249)「君」 つえを持って祝詞となえる

2013.6.27 12:34

 白川静さんの漢字学の影響(えいきょう)を受けた小説家に宮城谷昌光(みやぎたにまさみつ)さんがいます。古代中国を舞台(ぶたい)にした多くの作品がありますが、その宮城谷さんの出世作に「天空の舟(ふね)―小説・ 伊尹(いいん)伝」があります。直木賞候補(こうほ)となり、新田次郎(にったじろう)賞を受けました。中国最古の夏王朝を滅(ほろ)ぼした商(殷(いん))王朝の湯王を補佐(ほさ)した名宰相(さいしょう)・伊尹の生涯(しょうがい)を描(えが)いたものです。

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 その「伊尹(いいん)」の名をよく見ると、 似(に)た文字ですね。その「伊(い)」は「尹」に「イ(にんべん)」を加えた文字が「伊」ですし、「尹」に「口」を加えれば、みなさんよく知っている「君」です。それらの字について紹介(しょうかい)しましょう。

 「尹」は「帚(そう)」の上部や「彗(すい)」の下部にある字形と、棒(ぼう)のような「ノ」の字形を合わせたものです。「帚」の上部は「又(また)」の字のことで「手」の意味。「ノ」は神様の霊(れい)が宿るつえです。

 つまり、そのつえを持って、神様に仕える者のことです。神意をただすので「ただす、おさめる」などの意味があります。

 「伊」もその神のつえを持つ人の意味ですが、最初は「伊尹」などの固有名詞(めいし)に使われ、その後に「これ、よる」などの意味に使われるようになりました。「伊」と日本語との関係で一つ紹介しておきますと、「伊」の偏(へん)から片仮名(かたかな)のイロハの「イ」ができました。

 「君」の「口」は顔にある「くち」ではなく、神様への祈(いの)りの言葉である祝詞(のりと)を入れる器「口」(サイ)です。つまり「君」は神のつえを持ち、祝詞をとなえて神を呼(よ)び寄(よ)せることができる聖職(せいしょく)者(神に仕える人)の長でした。そこから氏族の長を「君」と言い、君主のことをいうようになりました。その「君」が、のちに里君(りくん)と呼ばれる村落の統治(とうち)者となり、その支配(しはい)する地域(ちいき)を「郡」といったのです。

 紀元前221年に初めて中国を統一(とういつ)した秦(しん)王朝は、全国を36郡に分け、郡の下に県を置きました。県の下に郡がある現在(げんざい)の日本とは異(こと)なりますね。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの漢字「君」は小学3年生で学ぶ漢字です。「郡」は小学4年生で学ぶ漢字です。

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