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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(250)「乱」 糸の乱れを解きほぐす

2013.7.4 13:13

 「 武王 (ぶおう) 曰 (いわ) く、予に 乱臣 (らんしん) 十人有り」との言葉が「 論語 (ろんご) 」にあります。武王は周王朝の 祖 (そ) です。「乱臣」とは「国をよくおさめる 優秀 (ゆうしゅう) な家来」のこと。だからこの「乱」は「おさめる」の意味です。

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 「乱心」の「乱」は「みだれる」。「乱」に「おさめる」「みだれる」という反対の意味があるのです。その説明です。

 「乱」の 旧字 (きゅうじ) 「亂」の左側の上部に「 爪 (つめ) 」があり、下部に「 又 (また) 」があります。「爪」「又」は「手」の意味です。「 冂 (けい) 」の上の線の上下にあるのは糸です。つまり 糸架 (いとかせ) (冂)にかけた糸が 乱 (みだ) れているので、上下の手でほぐそうとする 姿 (すがた) が「亂」の左側の字形で「みだれる」意味です。

 さらに右側に 骨 (ほね) べらの「 乙 (いつ) 」を加え、 解 (と) きほぐすことが「亂」で、意味は「おさめる」でした。それが左側の「みだれる」の意味が「亂」に加わってしまったのです。

 「辞書」の「辞」の旧字「辭」の左側も「亂」の左と同形です。右の「 辛 (しん) 」は大きな 針 (はり) です。乱れている糸を針で解きほぐすことが「辭」です。

 古くは「辭」は 裁判 (さいばん) の言葉で、自分への 疑 (うたが) いを解き明かすことでした。その言葉のことから「ことば」の意味となりました。「 辞任 (じにん) 」「 辞退 (じたい) 」など「やめる」「ことわる」意味にも使います。

 字形中の上下に「手」がある字では「 隠 (いん) 」「 穏 (おん) 」もそうです。「隠」の旧字「隱」の右は上から「爪」(手)と「工」と「 帚 (そう) 」の上にある字と「心」を合わせた形です。

 「帚」の上部は「又」の変形で「手」の意味。「工」は神様に 呪 (まじな) いをかける道具です。その神への 呪具 (じゅぐ) 「工」を上下の手で持つ字形です。左の「 コザト (こざとへん) 」は神が天と地を 昇降 (しょうこう) する 階段 (かいだん) です。「コザト 」の前で両手に呪具を持ち、ひそかに 祈 (いの) る「心」が「隱」で「かくれる」の意味になったのです。

 「穏」(穩)の「 禾 (か) 」は 穀物 (こくもつ) の意味。呪具を 両手で持ち 、農作業の「 穏 (おだ) やかな」ことを祈る字です。旧字が分かりやすい字が多いですね。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの漢字「乱」は小学6年生で学ぶ漢字です。「辞」は小学4年生で学ぶ漢字です。

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