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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(255)「発」 弓を射て開戦知らせる

2013.8.8 10:05

 「 戈 (ほこ) 」は 敵 (てき) を 突 (つ) き 刺 (さ) すための長い 柄 (え) のついた 武器 (ぶき) です。漢字の部首で「るまた」と 呼 (よ) ばれる「 殳 (しゅ) 」もつえぐらいの長さの戈のことです。だから「殳」がある字に戦争に関係した漢字があります。

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 「発」もその一つ。 旧字 (きゅうじ) 「發」をみると「殳」がありますね。「發」の上部は「登」の上にある形と同じです。古代文字が分かりやすいですが、 足跡 (あしあと) の形である「止」と、それを左右反対にひっくり返した形を合わせた字形です。つまり左右の足をそろえる形です。

 その下に「弓」と「殳」を加えた「發」は両足をそろえて「弓」を 射 (い) って開戦を知らせることです。そこから「はじめる」の意味となりました。

 弓で矢を射る「発」には発散する意味があります。それに「 サンズイ(さんずい) 」を加えた「 ハツ(はつ) 」は水がよく散る様子。「 活ハツ(かっぱつ) 」は元気で勢いのよいさま。今は「活発」とも書きます。

 お酒や 味噌 (みそ) を作る 際 (さい) の「 配の己が登の豆が弓の右に役のツクリ 酵 (はっこう) 」の「配の己が登の豆が弓の右に役のツクリ 」は 酵素 (こうそ) によって 醸 (かも) すこと。「配の己が登の豆が弓の右に役のツクリ 」にも発散、広がっていく感覚がありますね。

 「殳」の関係字の最後に、ちょっと不思議で 愉快 (ゆかい) な字を 紹介 (しょうかい) しましょう。まず「 殿 (でん) 」です。

 「殿」の左は「 キ(き) 」( 腰掛 (こしか) け)に 座 (すわ) っている 姿 (すがた) 。 臀部 (でんぶ) を強調した形で「 臀 (しり) 」の意味です。それに「殳」を加えた「殿」は臀たたきのことです。なぜそんな風習があったのか分かりませんが、臀たたきは、 婿 (むこ) を 迎 (むか) えるなどの際にも行われることもあるそうです。「殿」に肉を意味する「月」を加えた字が「臀」。そういえば「 沈澱 (ちんでん) 」の「澱」にも、下部にたまるようなイメージがありますね。

 最後の紹介は、漢字のルーツ・ 甲骨 (こうこつ) 文字を生んだ 殷 (いん) 王朝の「殷」の字です。左側は「身」の字を左右反対にした形です。「身」は 女性 (じょせい) が 妊娠 (にんしん) している姿。つまり「殷」は母親のおなかを「殳」で 殴 (う) って、中の子の生命力を強くする 儀式 (ぎしき) ではないかと思われる文字です。それゆえに「殷」は「さかん」という意味です。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの「発」は小学3年生で学ぶ漢字です。

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