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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(267)「航」 川を渡る筏代わりの舟

2013.10.31 12:21

 夏目漱石(なつめそうせき)に「坑夫(こうふ)」という少し変わった作品があります。恋愛(れんあい) 事件(じけん)で家を出た主人公が人に誘(さそ)われるまま坑夫になり、銅山(どうざん)の坑内深く下りて行くという物語で、ルポルタージュ的な作品です。村上春樹(むらかみはるき)さんの「海辺のカフカ」の中でも紹介(しょうかい)されていました。

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 その「坑夫」の中に「人間であるからは、たまには怒(おこ)るがいい。反抗(はんこう)するがいい」という言葉があります。

 いやいや漱石の作品について紹介したいわけではありません。「坑夫」の「坑」と「反抗」の「抗」という字、似(に)ていますよね。その紹介です。

 この「坑」「抗」の説明の基本(きほん)となるのは右側の「亢(こう)」という字です。この「亢」は人の首ののどの動脈部分をふくんでかかれた象形文字で、意味は「くび」のことです。

 この「亢」の部分、首を真っすぐ立てた姿(すがた)が相手に従(したが)わない姿勢(しせい)です。それを意味する字が「抗」です。白川静さんの字書「字通」には「屈(くっ)せずして争うことを抵抗(ていこう)という」と記してあります。

 首を立てることから、「亢」には真っすぐ下がる意味があります。「亢」に「土」を加えた「坑」は竪穴(たてあな)のことです。

 「坑」の異体字に「コザトヘンに抗のツクリ(こう)」が挙げられています。この「コザトヘンに抗のツクリ」はあまり使わない字ですから、理解(りかい)するだけでいいと思いますが、「こざとへん(こざとへん)」は神様が天上と地上を昇降(しょうこう)する階段(かいだん)(または梯子(はしご))です。

 その「こざとへん」の前に竪穴「坑」を設(もう)けて、その穴(あな)に多くのいけにえが埋(う)められたようです。

 「亢」はのどの形で、直線的な状態(じょうたい)、直線的なものを表します。古くは大きな川を渡(わた)るのに筏(いかだ)を組んでつくった浮(うき)橋を使いました。これを「杭(こう)」と言います。ですから「杭」の意味は「わたる、ふね」です。「くい」の意味に使うのは日本語の用法だそうです。

 そして筏に代えて舟(ふね)を用いるようになったので「航」の文字ができました。意味は「わたる、ふね」です。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの漢字「航」は小学4年生で学ぶ漢字です

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