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文化

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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(286)「残」 残された死体の人骨

2014.3.20 15:02

 「衣食足りて礼節を知る」。生活が豊(ゆた)かになって初めて礼儀(れいぎ)に心を向けることができるようになるという意味の言葉です。つまり人は金銭(きんせん)が残り少なくなると浅はかなことをしがちなのです。

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 いや、道徳(どうとく)心について述(の)べたいのではありません。「金銭」「残り」「浅はか」の「銭」「残」「浅」の三つは右の形が同じですね。これらは一つの関係性をもった字なのです。その紹介(しょうかい)です。

 その説明には「銭」「残」「浅」の旧字(きゅうじ)「錢」「殘」「淺」の右にある「戔(さん)」の説明をしなくてはなりません。これは「戈(ほこ)」を重ねた形で、薄(うす)く小さいものを重ねた状態の意味があります。

 「残」の「歹(がつ)」は人の死体の胸(むね)から上の骨(ほね)が残っている形。死体の「死」はこの「歹」と「匕(ひ)」を合わせた形です。「匕」は右向きの「人」で、残骨(ざんこつ)になった者を拝(おが)んでいる人です。そこから「死ぬ」意味になりました。

 ですから「残」(殘)は、ばらばらになって、わずかに残されている骨のことで、「のこる」の意味になりました。

 薄く小さいものを重ねた状態(じょうたい)の「戔」に「さんずい(さんずい)」を加えた「浅」(淺)は「水が浅い」ことで、そこからすべての「あさい」意味になったのです。

 また「銭」(錢)は「戈」を重ねた意味に近いほうの文字です。中国の古い字書「説文解字(せつもんかいじ)」には「銚(すき)なり。古(いにしえ)の田器なり」とあって、農具のことでした。後に「ぜに」の意味になりました。昔、銭は小さな刀の形をしていました。それを「刀銭(とうせん)」などと言います。

 まだ「戔」をふくむ字はあります。「戔」には薄いものを重ねる、連ねる意味がありますが、「桟(さん)」(棧)は木を連ねてつくる「かけはし」のことです。「桟橋」は船を港につなぎ、乗客らの乗降(じょうこう)などに使う橋です。

 「実践(じっせん)」の「践」(踐)は足跡(あしあと)が重なり連続する意味。足で「ふむ」意味となり、実行する意味となりました。「便箋(びんせん)」「付箋」の「箋」も薄い紙の意味です。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

【編注】今回テーマの漢字「残」は小学4年生で学ぶ漢字です。「浅」も小学4年生で学ぶ漢字です。「銭」は小学5年生で学ぶ漢字です。

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