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なるほど漢字物語

文化勲章を受けた漢字学者の白川静さん(故人)の研究を基にして、漢字の体系的な仕組みを楽しく伝える企画です。

(番外編5)「隣」  境で悪い霊を祓うまじない  

2014.7.31 12:57
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 神奈川(かながわ)県中心に展開(てんかい)する「有隣堂(ゆうりんどう)」という本屋があります。会社の沿革(えんかく)を読むと1909(明治42)年に横浜市で開店した屈指(くっし)の老舗(しにせ)書店です。

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 その有隣堂が67(昭和42)年から発行している月刊(げっかん)紙の名が「有鄰(ゆうりん)」となっています。「隣」も「鄰」も「となり」という同じ漢字ですが、時々「有隣堂」か「有鄰堂」か、どっちだったかなと考えたりもします。

 月刊紙「有鄰」は「論語(ろんご)」の「徳(とく) 孤(こ)ならず、必ず鄰(となり)有り」(人格(じんかく)のすぐれている人は、けっして独(ひと)りではない。必ず〈その人を慕(した)ってそのまわりに〉人が集まってくる)という言葉からです。

 他の字書では「鄰」は「隣」の正字とありますが、白川静さんの研究によると「隣」のほうがもともとの文字だそうです。そして、その意味はかなり怖(こわ)いものでした。

 まず「りん(りん)」から紹介(しょうかい)すると、「りん」はいけにえとして、はりつけにされている人の形です。人の正面形を示(しめ)す「大」の字形の上下に小点をそえて鬼火(おにび)を発することを示している文字です。鬼火は雨夜の墓地(ぼち)や湿地(しっち)に現(あらわ)れる青白い火です。

 「隣」の「こざと(こざとへん)」は神様が天地を昇降(しょうこう)する階段(かいだん)(または梯子(はしご))で、その「こざと」の前に人のいけにえを置いて、異族(いぞく)との境(さかい)にある悪い霊(れい)を祓(はら)うまじないをしたのです。そのまじないをした聖所(せいしょ)が「隣」の意味です。後に「となり」の意味となりました。

 ですから「りん」に「火」を加えた「燐(りん)」は「おにび」という意味です。戦場に鬼火を見ることが多かったようです。熱が無くて光るので、また蛍火(ほたるび)のことをも言います。

 「憐憫(れんびん)」という言葉がありますが、「憐」は人をはりつけにした「りん」に「りっしんべん(りっしんべん)」(心)を加えた字形で「憐(あわ)れむ気持ち」のことです。

 最後にもう一つ。それは「魚鱗(ぎょりん)」の「鱗」です。「りん」は燐火で光るものの意味があり、また相連なるものの意味があります。そこから魚の「うろこ」の意味に「鱗」はなりました。(共同通信編集委員 小山鉄郎)

 【編注】今回テーマの漢字「隣」は常用漢字です。

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