(680)個性的な顔、きれいな体色 テンス

体がピンク色をおびた魚が泳いでいた。少し赤みの強い部分が、3本の太いおびのようなもようになっている。愛知県蒲郡市の竹島水族館にいるテンス。
目が頭の近くの高い位置にあって、口がとがっていないからか、なんだかぼうっとしているような顔に見える。
スタッフがその魚の自己紹介を書きこむ「魚歴書」の「お客さんへの希望」の欄に「ヘンな顔なんて言わないでくださいね。個性的な顔は見てほしいけど、体の色も自分ではきれいだと思っているので、見てほしいです」とあった。
副館長の戸舘真人さんによると、東京湾より南の海、東インド諸島などにいる。
「この魚の特徴は『側扁(そくへん)』といって左右におしつぶされたような平べったい形です」と戸舘さん。正面を向いたときに見ると、たしかに平べったい。それでも内臓がちゃんとおさまっているんだ。
魚歴書の「特技」の欄には「砂の中にもぐってねること」とある。
「どんな水槽が希望ですか」の欄にも「水槽の中に砂がほしいです」。砂が欠かせないらしい。
砂にもぐるのは夜、ねる時だけですか? 「いいえ、危険を感じた時もすばやくもぐります」
ずっと水槽の前にいたけれど、もぐらなかった。ぼくのことはこわくなかったのかな。(文・写真、佐々木央)=2021年7月配信