【5059】三連星 夏の純米大吟醸 滋賀渡船6号(さんれんせい)


【B居酒屋にて 全5回の⑤完】
飲兵衛は年末、なじみの酒屋を挨拶回りする。俗に“檀家回り”ともいう。飲む口実が出来、飲兵衛にとって年末は楽しい時季だ。もちろんB居酒屋に顔を出す。おそらく2022年、わたくしが一番多くの種類の酒を飲んだのは、このB居酒屋であるのが間違いのないところだから。というよりは、断然トップだ(笑)
「日高見」「五稜特別純米 辛口」「五稜 純米吟醸」「出雲富士」と飲み進め、次にいただいたのは「三連星 夏の純米大吟醸 滋賀渡船6号」だった。美冨久酒造のお酒は当連載でこれまで、4種類を取り上げている。内訳は「美冨久」2種類、「三連星」2種類。さて、いただいてみる。
酒蛙「おおおっ、かなり甘いぞ。口当たりやわらか」
仲居さん「含み香や余韻は、チョコレートをおもわせる香味。これ、すごいわ!!!」
酒蛙「おおおっ、たしかにそうだ。含み香は、カカオをおもわせる。カカオの香りの甘みが強いお酒。このような香りのお酒は初めてだ! 余韻はやや辛み。酸はまったく出ていない。酸が苦手な飲み手に絶好のお酒だ」
瓶の裏ラベルは、「三連星、令和3酒造年度への熱き想い」と題し、以下の文章を掲載している。
「宇宙世紀2022年。CVD軍との一進一退の攻防は未だ先が見えず。この仕組みの深さを破壊する方法を見つけるべく、地酒界はスペー酒ノイドとして明日の未来のために再び立たねばならんのである!」
なんのこっちゃ、だ。意味が全く分からん。書いている人だけが分かる文章はいけません。読み手が分かる文章を書かなければなりません。自己満足はいけません!!!
一方、蔵のホームページはこの酒を「アルコール度数を落として夏でもスッキのみやすいタイプのお酒に仕上げました。フルーティーでスッキリ爽やかに飲んでもらえます」。
裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(国産)米こうじ(国産米)、精米歩合50%、滋賀渡船6号100%使用、アルコール分15度、日本酒度+3、酸度1.3、製造年月2022年7月、甘辛の目安は辛口と甘口の中間」。アルコール度数を落としたというが、15度は落とした数字とはおもえないのだが・・・。
使用米の「滋賀渡船6号」は復刻米である。「滋賀県産渡船」について、科学技術振興機構のサイト「産学官連携ジャーナル」に詳しいので要点部分を以下に転載する。
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滋賀県農事試験場(農業試験場を経て現在、農業技術振興センター)は明治28年に開設された。そこで福岡県産「渡船」が品種試験に供試され、純系分離により「滋賀渡船2号」「滋賀渡船4号」「滋賀渡船6号」が育成され、県の奨励品種として昭和34年まで湖南地方を中心に栽培されていた。生産されなくなって半世紀、「滋賀渡船」は文献に残るだけの幻の酒米だった。
「滋賀渡船」の生産復活は、平成15年、JAグリーン近江酒米部会が東近江農業改良普及センターに「山田錦」の父に当たる「渡船」をつくりたいと要望したことが始まりだった。平成16年、農業技術振興センターから、県が品種保存していた「滋賀渡船」の種子を一握り(50グラム)譲り受け、東近江農業改良普及センターの普及員の指導と農業技術振興センターの協力で増殖に成功、約3坪の水田で採種した。平成17年には、約50アールで試験栽培を行い、醸造適性試験を行った。分析から、酒造好適米の指標となる山田錦の標準値と遜色(そんしょく)のないデータが得られた。
平成18年には、「滋賀渡船」を酒米部会員である生産者6名で6ヘクタール栽培した。その生産量は21トンになり、そのすべては県内酒造会社8社と契約した。(後略)
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酒名「三連星」の由来について、「三連星 純米吟醸 無濾過生原酒 渡船6号」(当連載【499】)の瓶の裏ラベルに、以下のように書かれている。
「東海道の宿場町・水口で初代が酒造りを始めて90有余年。滋賀県で復活栽培された酒米『渡船六号』を用い、次期4代目蔵元が企画から仕込みまで携わり、4代目を含む若手蔵人3人で育て上げた思いの詰まったお酒です。当蔵の礎を築いた3代目に敬意を表し、『三連星』と名付けました。当社100周年に向け、多くの皆様にご愛飲いただければと思います」。3代目や蔵人3人に引っ掛けた「三」だったのだ。
また、蔵のホームページは「三連星とは、滋賀県甲賀市にある蔵元『美冨久酒造』で、2007年(平成19年)に4代目蔵元が新しく立ち上げた新ブランドのお酒です」としたうえで、名の由来を以下のように説明している。
「種類を純米大吟醸、純米吟醸、純米酒の3種類を中心に出していく〈三〉
各種類の中に生詰原酒(通年商品)、特別限定、季節のお酒の3タイプを出していく〈三〉
渡船六号(祖父)・山田錦(父)・吟吹雪(子)という滋賀の酒米3世代を使う〈三〉
そして・・・創業100年を超え新たな次代に入り、それまでの過去3代の蔵元に敬意を表しての〈三〉
様々な〈三〉がずっと〈連〉なり〈星〉のごとく輝けるお酒を目指して名づけました」