素朴なそばと芳しい天然アユが合う「鮎天ぷらそば」 【GOHANスペシャル】


栃木県内を「食」のキーワードで網羅する「とちぎ食の回廊」には、現在、県内全域に10の「食の街道」が設けられている。その中の香りの高い八溝地域の「そば」と日本一の漁獲高を誇る清流那珂川の「あゆ」がコラボした「鮎天ぷらそば」。「そばの里まぎの」の一番の人気メニューは、地粉を使ったそばに天然アユの天ぷらなどがついている。
風味豊かなそばは、食べるとほのかな甘みが口の中に広がる。ここで食べられるのは、すべて店が管理する周辺の畑で栽培したそば粉で手打ちしたものだ。昔ながらの素朴な味わいで、日本のそばはこうでなければ、と納得させられる。
そこに添えられているのが、アユと季節の野菜の天ぷら。小ぶりのアユを開いて一夜干ししたものをカラッと揚げる。芳しい香りがそばにもよく合う。アユは近くを流れる清流那珂川から上がった天然物だから、そのおいしさもうなずける。野菜も地元のものを使うため、季節によって素材が微妙に異なるのも楽しい。

「そばの里まぎの」があるのは栃木県東部に位置する茂木町の山間地。この一帯はかつて葉タバコの産地として知られ、その裏作としてそばが作られていた。各農家で自家製のそばを打って食べるのは、ごく普通の風景だった。
やがて葉タバコの生産が衰退し、同時に耕作放棄地が目立つようになってくる。このままでは地域が廃れてしまうという危機感が芽生え、集落に何とか活気を取り戻そうと、牧野地区の住民が集まって立ち上げたのがこの店だ。自分たちで出資し、賄いから接客まで地元住民が携わる。店名も地区名から取った。

開店から間もなく10年を迎える。「店の運営なんてみんな初めてでしたから、最初は失敗の連続でした。ようやく自信を持って出せるようになったのは、1年くらいたってからでしょうか。その間に食べていただいたお客さまには、ごめんなさいって言うしかないですね」と店長の石川修子さんは苦笑いする。
ご飯ものは置かず、そばを中心にした食事のメニューは決して多くない。それだけにそばのおいしさが一層際立ち、最近は、土、日は店の前に行列ができるほどの人気になった。気軽にちょっと立ち寄る、という場所ではないだけに、遠くからわざわざ食べに来るファンが大半だ。

食事のほか、店内にはそばやエゴマのかりんとうなどの加工品が並ぶ。土、日限定ながら、そばのシフォンケーキ、そばのタルトなど、そばを生かしたスイーツも食べられる。これらにももちろん地粉が使われている。そば粉は店で使用するほか、地元の「道の駅もてぎ」で販売され、人気を呼んでいる。
当初は接客もぎこちなかったというが、今ではおもてなしの心がしっかりと根付いた。同時に日本の原風景を思わせるホッと安らぐ温かさにも満ちている。この日、天ぷらを揚げてくれたのは、74歳になるおばあちゃんだった。