努力し続け、結果を出すのが「強い選手」

2023年06月01日
共同通信共同通信
中村 多聞 なかむら・たもん
電通オフェンス、QB多川(4)からボールを手渡されるRB片岡(40)=Xリーグ提供
電通オフェンス、QB多川(4)からボールを手渡されるRB片岡(40)=Xリーグ提供

 

 春の公式戦「パールボウルトーナメント」の1回戦で敗れた同士の交流戦で、我々電通キャタピラーズは古豪アサヒビール・シルバースターと対戦しました。

 前回の試合は、荒天の中でミスも多かった王者・富士通にコテンパンにされ、アサヒビール戦は快晴ではありましたが結果はご存知の通り16―50と実力差そのまま完膚なきまでにたたきのめされました。

 

 第1クオーターだけは7―0とリードしました。でも「このままの集中力で試合終了まで臨めば分からないぞ!」なんて考える暇もなくあっという間に逆転され、どんどん点差が開いていきました。

 電通の攻撃はパスを試みてもまともに投げさせてもらえず、ランプレーもすぐに止められてしまいます。点差がついてくると、アサヒビールの選手たちも試合開始時より伸び伸びと楽しそうにプレーしていますので、ミスも少なく余裕があるように見えました。

 逆に電通の選手は「これ以上ミスはできない」「なんとかして流れを変えたい」と思っているのか、日頃の練習時とはかけ離れた一生懸命さをむき出しにして動きに余裕が見えずガチガチでした。

 練習ではできていたことが、精神状態と環境が変わればできなくなるという、実戦では当たり前の理屈を身をもって学んだのではないでしょうか。チーム力の差という現実を突きつけられながら試合を戦わねばならないという残酷な時間を経験しました。

 

 昨季はX1エリアで優勝を経験し、入れ替え戦も勝ってX1スーパーに昇格しました。全てがうまくいったわけですが「これはとんでもないところに来てしまったぞ」と、チーム関係者全員が思ったことでしょう。

 富士通戦とIBMとの合同練習だけでは学び切れなかったということです。

 

 僕の感覚では練習を休む、試合を休むという選手がリーグ最高峰のカテゴリーに存在するのは驚き以外にありません。

 日頃の過ごし方も社会人アスリートとしては運動量も心掛けも低いままの選手がまだまだ多く存在する未成熟なチームです。そこで登場するのが、またまた若者が大好きな「俺たちには伸びしろがある!」というヤツですね。

 ただ、現代の選手はその指針を自分で定めることが難しいのだろうなと感じています。ですからこの「伸びしろ」とやらを埋める作業はなかなか困難です。

 「伸びしろ」に希望を持つのは好きだが、それを埋める地道で長い作業は嫌いですから厳しくてつらい挑戦を自分では思いつかないのです。

 

 選手たちはこの敗戦の痛みを通じて、自分たちがまだどれほど成長を遂げなければいけないのかを強く感じたことでしょう。痛みは自分たちの立場をより深く理解するきっかけになったことでしょう。

 試合後に彼らと話すと、自分たちが所属するリーグのレベル、自身のスキルや意識などを再評価する必要があると感じているようでした。

 意識の高い選手は自分を見つめ直し、日々の訓練にどう取り組むべきか、シーズン中や選手生活でどう集中力を保つべきか、自分たちがさらに前進するためには何が必要かを考えます。自身の改革を決意し、自分自身をより高い基準に照らし合わせます。

 

 生活スタイルの改革は特に重要でしょう。会食や飲み会を減らし健康的な食事を心がけ、規則正しい適切な睡眠と定期的なリカバリーでパフォーマンスを向上させることは大切です。さらにメンタルヘルスにも注目し、ストレス管理や目標設定、自己啓発に取り組むことも重要です。

 しかしながら経験不足ですから、まだまだ学ぶべきことが山のようにあります。その結果が敗戦という形で訪れるかもしれません。それらを経て彼らはより良い「競争者」となり、より結束力のあるチームになり、そして自分自身に対して誠実になっていくでしょう。

 

 確かに彼らはまだX1スーパーレベルでの経験が多くありません。彼らの努力と学び、そして成長し続けるという意志を途切れさせないことが重要です。

 自分たちにはまだ「伸びしろ」があると確信し、その信念が自分たちを駆り立て、目指す目標に向けて一歩ずつ進まなければいけません。

 コーチである僕としては、シーズンの終わりに彼らそれぞれの目標に少しでも近づくことができるためのサポートをしていければと思っています。昨日の自分を超えて着実に伸びていってもらいたいと思っています。

 

 自分たちよりも経験豊富で強大な対戦相手に、全く何もさせてもらえなかったわけですが、週1度の全体練習だけ参加していればどうにかなる低いレベルのリーグではありません。

 仕事や勉強が忙しいけれど、遊びや恋も楽しみたい。それは誰しも同じです。少ない時間を最大限に活用して努力し続け、結果を出すのが「強い選手」です。

 

 一切問題なく最高の環境下で24時間、365日競技力向上にだけ打ち込める人は、世界中のプロフェッショナルを含むスポーツ選手の中でもほんの一握りです。誰しもが何らかの制約を複数背負いながら日々を過ごし戦っています。

 「故障、時間、苦痛との付き合い方が下手な選手は競技力も低い」というのが僕の持論です。甘えた考えを捨て、自分に懸けてみるのが現役選手としての一番の醍醐味ちゃいまっか。

 

 
 

中村 多聞( なかむら・たもん)プロフィル
1969年生まれ。幼少期からNFLプレーヤーになることを夢見てアメリカンフットボールを始め、NFLヨーロッパに参戦しワールドボウル優勝を経験。日本ではパワフルな走りを生かして、アサヒ飲料チャレンジャーズの社会人2連覇の原動力となる。2000年シーズンの日本選手権(ライスボウル)では最優秀 選手賞を獲得した。河川敷、大学3部リーグからNFLまで、全てのレベルでプレーした日本でただ一人の選手。現在は東京・西麻布にあるハンバーガーショップ「ゴリゴリバーガー」の代表者。