【5215】シン・ツチダ 純米 完全無添加醸造【群馬県】

2023年05月28日
酒蛙酒蛙
群馬県利根郡川場村 土田酒造
群馬県利根郡川場村 土田酒造

【E居酒屋にて 全6回の⑥完】

 1カ月ほどE居酒屋にご無沙汰していたので、顔を出す。冷蔵庫を見たら、まだ飲んだことがない酒が6種類、鎮座していた。よし、これを全部飲まなきゃ。女将さんと語らいながら、じっくり酒をテイスティングする。至福の時間が流れていく。

「雪雀」「文佳人」「黒尊」「安芸虎」「三笑楽」に続いて最後にいただいたのは、「シン・ツチダ 純米 完全無添加醸造」だった。

 土田酒造のお酒は当連載でこれまで、9種類を取り上げている。土田酒造は、近年、さまざまな新しいことにチャレンジし、全国の酒造関係者からその動向が注目されている気鋭の酒蔵だ。とくに生酛仕込みを得意としており、全量生酛蔵へ移行させた。今回のお酒はどうか。期待をもっていただいてみる。

 おおおっ、これは何だ! 醤油をおもわせる上立ち香ではないか。含むと、アンズのような含み香。味わいは甘み、旨み、辛み。とくに旨みがふくらむ。甘みはハチミツをおもわせる。余韻に辛み、苦み、渋みあり。とにかく、アンズを思わせる香味が香ばしく、燗上がりしそう。総じて表現不能な複雑香味。あるいは、やや昭和的香味。ひとことで言うならば、アンズ香が香ばしい古酒的紹興酒的昭和的お酒。

 甘旨酸っぱい味わいだが、ジューシーには感じず。したがってモダンタイプではなく、クラシックタイプの、ミディアムボディー酒。あるいは熟酒的醇酒。なんてったって、江戸時代の製法を採用しているから、モダンタイプにはなりえない。ただ、種麹に焼酎用の黄麹を使っているため、酸が良く出ており、モダンのニュアンスはある。

 瓶の裏ラベルは冒頭、蔵のコンセプトを以下のように説明している。「当蔵のすべての日本酒は、醸造アルコール等の添加物を使用しない生酛造りの日本酒です。酒質矯正剤及び発酵補助剤(乳酸・酵素剤)など、ラベルに表示義務のない添加物も一切使用しておりません」。わたくしの記憶では、このような口上は、秋田県の新政酒造が始め、全国の気鋭の蔵に広まりつつある。

 裏ラベルではこの酒を以下のように紹介している。

「〈シン・ツチダ〉自然の菌の働きを活用する生酛造りの日本酒です。人為的な酵母添加・乳酸の添加・その他発酵補助剤等を一切使用しない、江戸時代の製法を採用。精米歩合90%の食用米を用い、近代的な酒造設備と伝統的な醸造技術からうまれた時代を繋ぐ旨い酒。常温◎ ぬる燗〇」

 また、蔵のホームページは、この酒を以下のように紹介している。熱い、熱い、ハートが熱い。
     ◇
 新たな土田酒造を象徴する酒 ”シン・ツチダ”
 菌の働きを信じ、発酵を待ち、促す。
 土田酒造の真骨頂ともいえる”完全無添加 生モトづくり”の日本酒です。
 完全無添加醸造というのは、米、水、麹の3つ原料のみで造るということ。
 醸造アルコール、糖類、酸味料はもちろんのこと、ラベルに表示義務がない乳酸、酵素剤などの発酵補助剤も一切使用していません。
 そして酵母無添加。
 蔵に住み着いた酵母や乳酸菌たちがこのお酒を生み出しています。
 自然の菌の働きを活用して造るシン・ツチダは、常温保管を推奨しております。
 環境の変化にとても強く、開栓前、開栓後、劣化することなく味が進化していきます。
 購入後もお酒を育てて頂ける、伸びしろのある酒です。
 完全無添加の生モトづくりは、江戸時代の酒造りに近い製法。
 数々の微生物たちが生み出した、奥深く複雑な味わい。
 芯が通っていながらも、品が良い、味覚だけでなく、飲んだ人の心にも響くような酒。
 近代的な醸造設備と、伝統的な醸造技術からうまれた「時代を超える旨い酒」とも言えるでしょう。
 シン・ツチダのラベルデザインは、土田酒造のロゴマークでもある「土」の 象形文字をモチーフにしたもの。
 そのむかし、土を固めたものを供え、土地の神として祀ったことが漢字の由来となっています。
  新、真、神、信、心、深、進、芯、伸、、、
 シン・ツチダの”シン”は、特定の意味を持ちません。
 土田酒造の”シンを”、飲んだ方がそれぞれに感じて頂ければ幸いです。
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 裏ラベルのスペック表示は「原材料名 米(群馬県産)米麹(群馬県産米)、精米歩合90%、アルコール分16%、使用酵母 酵母無添加、使用種麹 焼酎用黄麹、醸造年度 令和2酒造年度醸造(2020-21)」。精米歩合90%というのがすごい。食用米(ご飯)の精米歩合は約92%だから、ほぼそれに近い。コメの外側を10%しか削っていないということは、コメを可能な限り、酒造に有効利用していることになり、エコなお酒でもある。

 しかし、超こだわりでお酒を醸していることは十二分に分かるが、それほどこだわるのなら、使用米の品種名も開示すべきだとおもう。使用米の品種名が非開示なのは残念だ。