【下水道 この美しき世界 #1】地下はモノクロームの世界 神戸市兵庫区の雨水幹線


時に幻想的、時に無機質…。下水道写真家の白汚零さんが、普段、私たちの目に触れることのない世界を、作品とともにつづります。
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1980年代に18歳で上京し、住んだ東京都板橋区のアパート近くで下水道のしゅんせつ工事が行われていた。道路に開いた黒い穴が私を招いている気がした。現場監督に掛け合い、ヘルメット着用を条件に、中に入る許可をもらった。
約2メートルの深さだったが、狭小な空間の底にしゃがみ見渡すと、下水道管には照明がなく、どこまでも闇のチューブが続いていた。やや白濁した汚水の細い流れは、自ら発光しているようだった。
地上の雑音は遮断され、代わりにこもった水音が聞こえるのみ。恐怖や不安は感じたが、同時にまるで母親の胎内にいるかのような心地よさも感じ、忘れがたかった。
専門学校の課題に追われる毎日だったが、長期休暇には下水道しゅんせつ工事のアルバイトをした。合間に写真撮影を許可してもらった。これが下水道写真家としての出発点だ。
当時は光と闇と無機質なコンクリートがつくる世界を表現するため、モノクロフィルムにこだわった。日本初の近代下水道でれんが造りの「神田下水」(東京都千代田区)に出合うまでカラーで撮ることは考えなかった。
デジタルカメラで撮影するようになっても、モノクロ表現へのこだわりがあった。自身の「原体験」に近いカットは、神戸市兵庫区東山町の永沢町雨水幹線で撮影した。

近くの松本地区では、下水処理場できれいになった水をせせらぎで流す。95年の阪神淡路大震災で、火災の延焼が被害を甚大にしたことを教訓に、非常時の初期消火用の水として活用するため、整備されたという。
せせらぎの水は、一定区間流れた後、地下の幹線下水道に落ちる。写真はカラー撮影でありながらも、限りなくモノクロームに見える1枚だ。

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しらお・れい 1965年高知市生まれ。米スクール・オブ・ビジュアルアーツ卒。80年代から各地の下水道や管路、下水処理場などを撮影する。写真集は「地下水道 undercurrent」「胎内都市」(草思社)。
