【インタビュー】錦鯉、苦節30年で故郷に錦 6月から独演会ツアー


※後段にインタビュー一問一答があります。
漫才の「M―1グランプリ2021」で史上最年長王者になったお笑いコンビ「錦鯉」(長谷川雅紀、渡辺隆)が、6月4日の東京公演を皮切りに5都市7公演の独演会ツアーを開催する。12年のコンビ結成以来初となるツアーへの思いを語った。
長谷川の“バカ”を前面に出すスタイルは不変で、コンビの頭脳・渡辺は「うちはそれしかない」ときっぱり。長谷川が「最近、利口になってきたかもしれない」と懸念すると、渡辺は「だとしたら、今年で終わりです」と切り捨てた。
2カ所目の札幌市は長谷川の故郷で、上京前に約6年間芸能活動をしていた。「あれから30年くらい。故郷に錦を飾れる時がやっと来た」と感無量の様子で「(十八番のギャグ)『こんにちは!』の大きさや、表情を目に焼き付けてほしい」と意気込んだ。
M―1優勝後の長谷川は少しも偉ぶらず、若手に交じってひたすらバカをやり続けている。「あまりにも世に出ない時期が長すぎて『自分は虫けら』という気持ちがこびりついちゃっているんです」と謙遜。渡辺は「良くも悪くも全く変わらないのがすごいところ。コンビを結成した時から既に出来上がっていた。もっと早くに売れてもいい人だった」とたたえる。

「ファンはおじさんばかり」と自虐的に語っていたが、最近子どもたちからの人気が急上昇。長谷川の人気は絶大で、渡辺は「本能的に『同じくらいだ』って受け入れてくれるんでしょうね。『一緒に遊ぼう』っておもちゃを貸してくれた子もいました」と笑わせた。
公演日程は、6月4日東京・全電通労働会館、11日札幌・共済ホール、7月1日岡山・おかやま未来ホール、2日福岡・電気ビルみらいホール、28、29日大阪・朝日生命ホール、8月13日東京・なかのZERO
※ここからは、錦鯉のインタビュー一問一答をお送りします。
目次

【①なぜ今、初独演会ツアーなのか】
▼記者 このタイミングで初めての独演会ツアーを行うことになった経緯は?
●長谷川 おととし、初めて独演会(2021年10月に東京・池袋HUMAXシネマズで開催「こんにちわ」)をやらせてもらって、それから毎年やっていこうという話になっていて。さすがにM―1優勝後の1年間はスケジュールが厳しくてできなかったんです。今年は独演会をできることになって、やるんだったらツアーがいいねという話になったと思う。僕の記憶が確かだとすれば。

■渡辺 そんなことは一言も言っていないと思う。一言もこの人から「単独をやる」なんて言葉は聞いたことはない。上が決めました(笑)。
▼記者 テレビなどでずっと忙しくしていると、漫才をやりたい、ネタを作りたいといった気持ちが湧き上がってくるものなのですか?
■渡辺 ネタを作りたいとはならないですね。正直な話、期限が無いと作らない。だから昔もライブの予定を先に入れて、無理やりネタを作っていたところがありますね。
▼記者 M―1に挑戦していた時期のネタ、M―1向けの漫才とはどのようなものでしょうか? また今回はM―1から解放された漫才になるのでしょうか?
■渡辺 一番大きいのは時間を気にせずに作れるというのがありますよね。M―1では、決まった時間の中で構成して、爆発力のある部分を作らなければならない。ちょっと数学っぽかったかな。今回はどこでどう盛り上がるとかをそんなには考えていない。垂れ流し。構成一切なし。ドキュメント。漫才の数は9本かな。全部新ネタです。面白い二人が出て行ってセンターマイクの前で話すとそこに化学反応が起きる。自分たちでもどうなるか分からない。
●長谷川 格好いいな! 相方でよかったです。こんな格好いい頼もしい男で。

【②ザコシショウのアドバイス】目次へ戻る
▼記者 同じ事務所の盟友、ハリウッドザコシショウから「もっと長谷川のバカを前に出していけ」というアドバイスがコンビにとって決定的だったと聞きます。ツアーでもネタの方向性は不変ですか?
■渡辺 それしかないんですよね。うちは。
●長谷川 僕が心配しているのは、もしかしたら利口になってきたんじゃないかという懸念があるんですよね。
■渡辺 だとしたら、今年で終わりです。

▼記者 2021年の単独公演では、9本全てのネタで長谷川さんがツカミで「こーんにーちはー!」をやっていました。2人の間で事前に打ち合わせていたのでしょうか?
■渡辺 それは任せていましたね。毎回やった方がやりやすいんじゃないですか。
●長谷川 第一声が決まっていた方が入りやすいのはありますね。あの日一番、日本で「こんにちは」を言ったのは僕だと思いますよ。
▼記者 5都市7公演には、長谷川さんの地元・札幌も含まれていますね。
●長谷川 お笑いを始めた時は札幌で6年間くらい活動していました。その頃に僕のことを知ってくれて応援してくれるファンもいて、バイト時代の知り合いもいっぱいいる。そこから東京に出て全く音沙汰なしだったので、どこで何をしているんだろうと思っていた人たちもいると思う。この1、2年で「この人、まだ続けていたんだ」とバレて、そういう人たちも見てくれたらうれしい。
M―1後に知ってくれた新規のファンもいます。北海道にロケに行ったら「応援してるよ」と言ってくれる人もいる。5組くらいで行く営業で、北海道でネタをやったことはあるけど、単独では初めてです。30年くらいたって、故郷に錦を飾れる時がやっと来たんだなと思いますね。
▼記者 ファンへのメッセージ、独演会の見どころを教えてください。
●長谷川 生の「こんにちは!」の大きさ、表情を目に焼き付けてほしい。客席の間も空けなくてよくなったし、声も出せる状況なので〝こんにちは合戦〟とかをやってみたいですね。僕がこんにちは!を言ったら向こうもこんにちは!をして、どっちかが言えなくなるまで戦うんです。喉がつぶれるまでやるやつです。
■渡辺 よそでやってくれよ! まあ、おじさんの会話を見てもらえたらなという思いですね。M―1が終わって、そんなに肩肘張ったネタではないかな。ただただやりたいこと、面白いと思うことだけをやろうかなと。お客さんに合わせないかもしれないんで、その辺はご了承ください。

【③M―1優勝後の生活】 目次へ戻る
▼記者 何度も聞かれたと思いますが、あらためてM―1優勝後の超多忙な生活について教えてください。
●長谷川 優勝してから、次のチャンピオンが生まれるまでの1年間は本当に休みなし。1日に3本収録があって、その間に取材や打ち合わせの毎日。「今、どこで何をやっているのか」がふと分からなくなったり、「昨日、何の仕事をしてたっけ?」って思ったり。コロナ禍だったので仕事が終わっても、誰かとご飯に行く事もほとんどなかった。現場で会った人にもカメラが回っているところだけでしゃべって、次に何か月か後に会ってもまたカメラが回っているところで話すだけだから親交もなく。みたいなことの繰り返しで、何も考えることもないまま1年間が終わって、あっという間だったという印象ですね。
寝られる時間があったかなと思いきや、仕事の直後や移動中はカッカカッカして寝られない。そんな中で年齢も年齢で免疫も落ちていただろうし、よく2人ともコロナにならずに済んだな。よく無事に駆け抜けられたなあと思いますね。
【④自分は虫けら】 目次へ戻る
▼記者 優勝後も長谷川さんは偉ぶるところがない。若い人たちの中でも一番バカをやってますますパワーアップしている印象です。
●長谷川 偉ぶるというのはできないですね。あまりにも世に出ない時期が長すぎて、「自分は虫けら」、「生き物の中で一番下」というのが、体にこびりついちゃっているんです。普通、売れない人は鬱憤がたまって「おまえらが(おれたちのことを)分かってないんだよ」みたいに言うじゃないですか。でも僕は「自分がダメだ」と思うから、そういう風にはなれなかったんですよね。だから今年後半の目標は「偉ぶる」です。

■渡辺 ダメだよ。そう思っちゃ。「虫けらだと思ってた」じゃないんだよ。虫けらなんだから。それを忘れちゃ絶対ダメ。
●長谷川 あ、虫けらなの? だけど人間になりたいなと思って。
■渡辺 妖怪人間の考え方なんですね。ベロと一緒。人間の友だちと遊びたいって。
▼記者 衣装はベムみたいで格好いいです。
●長谷川 ベムはこういう頭ですもんね。
■渡辺 中身はベロ
●長谷川 ガハハハ!見た目はベムで中身はベロ。本当だ!
■渡辺 でもそれがいいところですけどね。雅紀さんの。ただ、人間の本質は変わらないんじゃないですかね。売れて調子に乗っちゃう人は、最初からそういう人なんだと思う。

▼記者 かつては自虐的に「僕らのお客さんはおじさんばっかり」と言っていました。M―1優勝後の1年半くらいで変化はありましたか?
●長谷川 お子さんが増えているんじゃないですかね。ロケで子どもたちに「こんにちは!」っていったら、「こんにちは!」って返してくれますし。番組のスタッフさんや出演者さんが「うちの子どもが好きなんです」と言ってくれることが多いですね。
■渡辺 保育園に行った時、子どもたちが本能的に同級生だと思って見ている感じがしましたね。新しい友だちが来たっていう感じで受け入れてましたね。
●長谷川 対等で来てくれるんですよね。頭をぺたぺた触ってくるし。僕が何かしゃべったら「ダメ!」とか言ってくるし。
■渡辺 「一緒に遊ぼう」っておもちゃを渡してきた優しい子もいたね。
▼記者 おじさん中心だったファン層が、子供まで幅広くなったかもしれませんね。
●長谷川 でもその間は抜けていますよ。10代、20代の若者は僕らのことが嫌いですから。
【⑤隆のソロ活動】 目次へ戻る
▼記者 M-1優勝後は渡辺さんがフィーチャーされる場面や、番組も増えたと思います。
■渡辺 あんまり意識はしていなかったけれど、一人は一人で楽しかったですね。「IPPONグランプリ」や「人志松本のすべらない話」とかはすごい経験でしたね。普段2人で出ている分、めちゃめちゃ緊張はしましたけどね。

●長谷川 ライブに出ている分にはどうしたって僕がいじられるワケだし、他の芸人がいても、隆はどっちかというとMCだとか回す、いじる立場だった。だから、僕は隆がいじられる場面をあんまり見ることがなかった。
だけどテレビに出たら僕よりも隆に食いつく人たちがいて、隆が面白くいじられているのが、すごく新鮮だったんです。隆も最初はとまどっていたかもしれないけれど、うまいこと柔軟にこなしてきたのかなあと思う。
考えてみたら、僕が「錦鯉は隆だよ」「実は隆がすごい」と言っているけれど、ただ単にハードルを上げているだけだから、言われた本人にとってはプレッシャーにしかならないですよね。隆本人の性格だろうけど、あまり気にせずマイペースにやっているのはすごいなあと思いますね。
【⑥もっと早く売れていい人だった】 目次へ戻る
▼記者 逆に隆さんから見て、雅紀さんが成長したところは?
■渡辺 いい意味でも悪い意味でも全く変わっていないですね。そこがすごいところなんです。最初に面白い、コンビを組もうと思ったところから何も変わっていない。もう、あの時に出来上がっていたんです。もっと早く売れていい人だったんじゃないかな。
成長とかじゃなくて、完成しちゃってますから。この前もテレビ番組で、クイズを出題する側なのに「せーの」で一緒に答えを言ってましたからね。何かを起こしてくれる人なんです。
●長谷川 そうだそうだ。びっくりしましたね~(と他人事のように)。
▼記者 そもそもなんですけど、2012年にコンビ結成したときは最初からコントではなくて、漫才をやろうと決めていたんですか?
■渡辺 漫才の方がいいかなと。(雅紀さんは)どんな役よりも、このままの方が面白いからじゃないですかね。コントもやったことはありますけど。このままでしたからね。
●長谷川 キングオブコントも出たことあるんですよ。舞台袖で着替える時、僕がなかなかパンツを履けなくてとまどって、変な空気にしちゃった。
■渡辺 15秒くらいで着替えて舞台に戻ってこなくちゃいけなかったんだけど、パンツを履くのに同じ穴に足2本入れちゃって。
●長谷川 練習してたんですよ。でも本番は袖が暗くて、それを想定していなかったんです。前と後ろとか、穴とかが分からなくなって。お客さんにも絶対トラブルが起きていることがバレバレで。あれはまずかったですね。

公演日程は、6月4日東京・全電通労働会館、11日札幌・共済ホール、7月1日岡山・おかやま未来ホール、2日福岡・電気ビルみらいホール、28、29日大阪・朝日生命ホール、8月13日東京・なかのZERO
(取材・文=共同通信 近藤誠、撮影=徳丸篤史)