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JR九州の「てつがく」 ななつ星発進!

2013.11.1 12:06
10月15日、博多駅を出発するななつ星
10月15日、博多駅を出発するななつ星

 10月15日、JR九州の寝台列車「ななつ星in九州」が運行を始めた。30億円を投じた豪華な車両が話題となり、運行前から注目を集めていたななつ星。料金は最高で113万円超(2人利用)で、誰もが親しめる列車ではない。鉄道ファンの間でも賛否両論あるだろう。ただ、JR九州には「自分たちだからできた」という自負がある。

 報道向けの車両公開など、取材担当として車両を見る機会が何度かあった。そこで感じたことは、めちゃくちゃ豪華だけど、けばけばしさが無いということだった。

 「贅沢とは何か」。唐池社長は、デザインを手掛けた水戸岡鋭治さんと何度も議論したという。ただ高価なものを集めればいいのか。そうではない。車内のもの一つ一つに意味があって、使い勝手を考えた上でつくられている。そこに鍛錬を積んだ乗務員のサービスがある。おいしい料理が加わる。

 そして何より、九州の魅力を伝える場所を走る。滝など見どころがある区間は、わざとゆっくり走る。そういうことが積み重なって贅沢になるのではないか。唐池社長は「表面的なものは狙っていない。贅沢な旅とは、哲学がある。世界に打って出るという熱い思いと、大変な手間を込めている。手間こそ価値だ」と強調する。

 1号車のラウンジカー。豪華でクラシックな雰囲気満点
 1号車のラウンジカー。豪華でクラシックな雰囲気満点

 車内の机や椅子は、職人に一から製作を依頼し、ひとつウン百万円するようなたんすまで上等な家具がずらりと並ぶ。随所に配置された、家具職人による組子もまた秀逸。繊細な作りに思わず見入ってしまう。

 食器や洗面鉢は有田焼だ。天井は広さを感じるようアーチ状になっていて、これも職人の高度な技術が成せる業と聞いた。高価なものが集まっているが、哲学に則った統一性があるのだ。

 JR九州の発足以来、デザイン顧問を務めてきた水戸岡さんは「こんな大変な列車を作ろうという決断ができる社長がいたからできた」と話す。「デザイナーはただの職人だけど、同社は特別に位置付けてくれた。会議でも社長の横に座らせて、どんどん議論できる環境にしてくれた。信頼関係があるからできた」と語ってくれた。

 また「今は効率が要求されて、デザインも分業化される。一貫性のあるものを作れるデザイナーが少ない。自分は26年間かけて、トータルでデザインできるようにしてもらった」とも話している。

 ななつ星は、ドル箱路線を持たない同社が知恵を絞って生み出してきた観光列車の集大成だ。JR他社も追随して豪華列車を走らせる計画を打ち出しているが、この2人からは「他社がこれほどの手間をかけられるのか」という自信がのぞく。

 ななつ星は博多駅発着で、九州を周遊しながら観光地に立ち寄るので、同社は「日本初のクルーズトレイン」と銘打つ。「この空間で、何もせず、車窓を眺めていることが1番の贅沢」(唐池社長)。これから、JR九州の哲学(鉄学?)が、どんな風に評価されていくのかが楽しみだ。(2013/10/18)

☆若林美幸(わかばやし・みゆき)1984年、さいたま市生まれ。共同通信社入社後、北海道と九州に赴任。現在は福岡支社で運輸などを担当し、ななつ星も取材。