【5045】くどき上手 播州愛山 純米大吟醸 生詰(くどきじょうず)【山形県】

2023年01月31日
酒蛙酒蛙
山形県鶴岡市 亀の井酒造
山形県鶴岡市 亀の井酒造

【E居酒屋にて 全7回の③】

 先だって、なじみのE居酒屋の女将さんから連絡が入った。「新しいお酒をたくさん入れたので、飲みにいらっしゃい」。さっそく訪れ、4種類の酒をテイスティングしたところで、客3人組が入ってきた。3人ともタバコぶかぶか、カラオケがんがんやらかしたため、とてもじゃないけどテイスティングに集中できない。ということで、いったん打ち切り、後日出直し、テイスティングの続きに取り組んだ。

「央」「超」と飲み進め、次にいただいたのは「くどき上手 播州愛山 純米大吟醸 生詰」だった。亀の井酒造のお酒は飲む機会が多く、当連載でこれまで、24種類を取り上げている。その中で「くどき上手」は19種類だ。「くどき上手」には華やかな香り、甘い味わい、という強い印象を持っている。今回のお酒はどうか。いただいてみる。

 開栓したら「プシュー!!!」と大きな音。瓶内発酵のガスが抜けた音か。上立ち香は、ぷ~~~んと甘やかな香り。メロン、白桃の香りをおもわせる。含むと同様の完熟した果実香が口の中に広がる。実になめらかでやさしい口当たり。味わいは、甘みが主体。途中から後味までは辛みがメリハリを与え、そのあとの余韻は苦み。酸は出てこない。ふくよかな口当たりで厚みのある濃醇寄りな酒だが、キレが非常に良い。モダンタイプのニュアンスがあるクラシックタイプ、ボディーはミディアムとフルの中間。あるいは醇酒的薫酒。

 瓶の裏ラベルは、この酒を以下のように紹介している。「愛山という酒米は  兵庫県 剣菱酒造だけが使用していた幻の酒米  数奇な運命より 酒道の會が発足  唯一全国12社だけが使用を許された経緯」。しかし、すべて体言止めというありえない文章のため、言っていることがよく分からないのが残念だ。

 裏ラベルのスペック表示は「アルコール分16度以上17度未満、原材料名 米 米こうじ、原料米 播州愛山100%、精米歩合44%、国産米100%使用」。

 使用米の「愛山」は、兵庫県立明石農業改良実験所が1941年、母「愛船117」と父「山雄67」を交配。太平洋戦争を経て1949年に品種を固定した。母方の父は雄町系、父方は雄町と山田錦の子という、全身に山田錦と雄町の“血”がたっぷり入っている、酒米界のサラブレッド的出自を誇る。玄米が大粒で、山田錦と同等かそれ以上の、米粒の重さと、米糠割合の少なさのため、酒造効率が良く、酒造に非常に適している、という評価が高かった幻の品種。現在は、兵庫県のごく一部の生産者だけが栽培している。希少品種ゆえ近年、人気が高まりつつあり、「愛山」を使う蔵が急上昇中だ。

 酒名「くどき上手」は、極めてインパクトがあり、ともすればナンパの帝王のように受け止められるが、もちろん全く違う。ブログ「美味しい地酒・日本酒」は、以下のように説明している。

「『くどき上手』の由来は、社長夫人の康子さんが戦国時代を生き抜いた武将からヒントを得たもので『何人も問わず武力でなく誠心誠意《説き伏せ》心を解く、心を溶かすように魅了する』、ご主人も同様に仲間から信頼され、説得力のある『くどき上手』を感じて命名されたそうです」。今で言うなら“説得上手”とでもいえようか。