コロナ後の神経症状に懸念 認知症のリスク要因に 乏しい日本の危機感
2023年01月10日

新型コロナウイルス感染症が脳や神経に及ぼす影響が懸念されている。急性期の症状が体にダメージを与えるほか、ウイルス感染による直接の影響もありそうだ。長く続く後遺症では強い疲労感で寝込んでしまう人がいるが、コロナ感染が長期的な認知症リスクを高めることも分かってきた。岐阜大の下畑享良教授(脳神経内科学)は「コロナはインフルエンザや風邪のウイルスとは全く異なる。無用な後遺症を避けるためにもマスク着用などの対策を続けることが大切だ」と話す。

感染の急性期に起きる異常のメカニズムはさまざまだ。ウイルスが神経を伝って脳に侵入するほか、脳と血管を隔てる「血液脳関門」というバリアーが破れ、ウイルスや炎症物質が脳に入り込むこともありうる。
感染によって血管内に血栓ができて周囲の神経を傷つけたり、異常な免疫反応によって自分の体を攻撃する「自己抗体」が作られたりすることもあると考えられている。
「こうした異常は直接・間接的な神経障害をもたらす。急性期からダメージが持続して起こり、後遺症になる人が多い」と下畑さんはみる。
米ワシントン大などのチームの国際分析では、疲労感や認知障害、呼吸障害といった後遺症を訴える人は女性に多く、また20代からの働き盛りの世代が多くを占めていた。今後の社会的損失が懸念される。
▽衝撃的
カナダの研究チームは神経に関わる後遺症の4分類を提案した。
まずは「認知・気分・睡眠障害」。頭にもやがかかったようになるブレーンフォグに加え、不安やうつ症状などを伴う。さらに動悸(どうき)や頻脈が起き、うまく体温調節ができない「自律神経障害」。筋肉や神経などに痛みやしびれが起きる「疼痛(とうつう)症候群」もある。「運動不耐性」は筋力低下や呼吸困難、疲労感などを伴う。
下畑さんは「最近になって特に注目されているのが認知機能の低下だ」
アルゼンチンの研究では、長く続く嗅覚異常が将来の認知症リスクと関係していることも分かった。「衝撃的な結果。コロナ感染は認知症のリスク要因となる」と下畑さん。「2千万人以上が感染した日本でもこれから認知症が増えていく可能性がある」と話す。
▽持続感染
米国では後遺症に対処するための取り組みが加速している。イエール大やジョンズ・ホプキンズ大などの研究者らは9月、仮想的な研究組織「ロング・コビッド・リサーチ・イニシアチブ(LCRI)」を設立。患者や製薬会社などと協力し、病態解明と治療研究に乗り出した。
後遺症では原因不明の疲労感で起き上がれなくなる人がいる。場合によってはウイルスが体のどこかに潜んでいて、持続的な免疫反応を引き起こしている可能性がある。下畑さんは「そうした人を見分ける診断手法を開発し、抗ウイルス薬による治療を目指すのがLCRIの狙いだ」と説明する。
一方、患者データの利用が進まない日本の後遺症研究は立ち遅れており、神経症状への危機感も乏しい。「コロナはあらゆる神経症状を引き起こすやっかいなウイルス。政府が感染対策のガードを下げる方向に加速しているのが心配だ」と語る。(共同=吉村敬介)

岐阜大の下畑享良教授(本人提供)
▽働き盛り
感染の急性期に起きる異常のメカニズムはさまざまだ。ウイルスが神経を伝って脳に侵入するほか、脳と血管を隔てる「血液脳関門」というバリアーが破れ、ウイルスや炎症物質が脳に入り込むこともありうる。
感染によって血管内に血栓ができて周囲の神経を傷つけたり、異常な免疫反応によって自分の体を攻撃する「自己抗体」が作られたりすることもあると考えられている。
「こうした異常は直接・間接的な神経障害をもたらす。急性期からダメージが持続して起こり、後遺症になる人が多い」と下畑さんはみる。
米ワシントン大などのチームの国際分析では、疲労感や認知障害、呼吸障害といった後遺症を訴える人は女性に多く、また20代からの働き盛りの世代が多くを占めていた。今後の社会的損失が懸念される。
▽衝撃的
カナダの研究チームは神経に関わる後遺症の4分類を提案した。
まずは「認知・気分・睡眠障害」。頭にもやがかかったようになるブレーンフォグに加え、不安やうつ症状などを伴う。さらに動悸(どうき)や頻脈が起き、うまく体温調節ができない「自律神経障害」。筋肉や神経などに痛みやしびれが起きる「疼痛(とうつう)症候群」もある。「運動不耐性」は筋力低下や呼吸困難、疲労感などを伴う。
下畑さんは「最近になって特に注目されているのが認知機能の低下だ」

と指摘する。英オックスフォード大のチームは各国の約130万人を分析し、コロナがインフルエンザなどの感染症と比べて神経症状の後遺症リスクが大きいことを示した。感染から2年たってもブレーンフォグなどが残り、認知症のリスクが高い状態が続いていた。
アルゼンチンの研究では、長く続く嗅覚異常が将来の認知症リスクと関係していることも分かった。「衝撃的な結果。コロナ感染は認知症のリスク要因となる」と下畑さん。「2千万人以上が感染した日本でもこれから認知症が増えていく可能性がある」と話す。
▽持続感染
米国では後遺症に対処するための取り組みが加速している。イエール大やジョンズ・ホプキンズ大などの研究者らは9月、仮想的な研究組織「ロング・コビッド・リサーチ・イニシアチブ(LCRI)」を設立。患者や製薬会社などと協力し、病態解明と治療研究に乗り出した。
後遺症では原因不明の疲労感で起き上がれなくなる人がいる。場合によってはウイルスが体のどこかに潜んでいて、持続的な免疫反応を引き起こしている可能性がある。下畑さんは「そうした人を見分ける診断手法を開発し、抗ウイルス薬による治療を目指すのがLCRIの狙いだ」と説明する。
一方、患者データの利用が進まない日本の後遺症研究は立ち遅れており、神経症状への危機感も乏しい。「コロナはあらゆる神経症状を引き起こすやっかいなウイルス。政府が感染対策のガードを下げる方向に加速しているのが心配だ」と語る。(共同=吉村敬介)