【編集後記】Vol.408=「いいQBは無理をしない」

2022年09月15日
共同通信共同通信
宍戸 博昭 ししど・ひろあき
法大戦でパスを投げる日大のQB金澤檀選手(8)=撮影:横田航洋
法大戦でパスを投げる日大のQB金澤檀選手(8)=撮影:横田航洋

 

 いいQBは無理をしない。ただし、相手のプレッシャーをかいくぐって、ピンチを脱する絶対的な自信がある場合は別だ。

 

 9月11日。東京・アミノバイタルフィールドで行われた、関東大学リーグ1部TOP8の注目の試合は、法大が後半に地力を発揮してライバル日大に快勝した。

 

 法大が21―6とリードして迎えた第4クオーター。残り試合時間は3分を切っていた。攻める日大はこの場面、第4ダウンで長い距離を残しギャンブルに出た。

 法大守備陣の激しいパスラッシュを受けた日大QB金澤檀選手は、フィールドを逃げ惑いながらレシーバーを探す。

 しかし、バランスを崩した体勢から苦し紛れに投げたパスは、法大のLB川村智紀選手にインターセプトされ、57ヤードのリターンTDに結びつけられた。

 

 リードされた状況、しかも第4ダウン。どうしてもパスを決めたいと思うのは当然だが、そこには大きな落とし穴が待っている。

 QBが「捕ってくれ!」とパスを投げて、致命的なインターセプトを喫する。高いレベルにあるNFLでもよく見られるシーンだ。

 

 1960年代後半から70年代にかけて、日大に佐曽利正良さんという名QBがいた。

 子どもの頃にテレビで見た佐曽利さんは、例えば50ヤード地点からの攻撃で相手のプレッシャーを避けて40ヤード下がり、そこから90ヤードを走ってTDするような規格外の選手だった。

名QBとして活躍した日大時代の佐曽利正良さん=毎日甲子園ボウル70年史
名QBとして活躍した日大時代の佐曽利正良さん=毎日甲子園ボウル70年史

 

 強烈なインパクトがある「サソリ」という名前とともに、大胆で華麗なプレーには本場米国の指導者も注目した。

 日本の大学の年間最優秀選手に贈られるトロフィーにその名が冠されたチャック・ミルズ氏(故人)が、監督としてユタ州立大を率いて来日した際に「彼(佐曽利さん)をアメリカに連れて帰りたい」と言ったという逸話が残っている。

 

 そんなスーパースターでも、必ずミスを犯す。追い詰められた状況ならその確率は増す。

 最後までパスを決めたいと思う気持ちは理解できる。第4ダウンでインターセプトを避けるためにボールを投げ捨てる方が、むしろ勇気がいる。

 

 花形ポジションのQBは、失敗も目立つ役回りだ。粒ぞろいのOLに守られていればいいが、そうした恵まれた環境でプレーできるQBは少ない。

 「絶対に無理をしない」。関西の強豪校のコーチが真っ先に挙げた、いいQBの条件である。(編集長・宍戸博昭)