安倍氏射殺、京アニ事件が防げたかも  もっと早く「氷河期」対策すれば  核心評論「秋葉原事件死刑執行」

2022年09月14日
共同通信共同通信

 国内外で日々起きている事件の中には、それぞれの社会が抱える問題や矛盾を浮かび上がらせる事件がある。7月26日に死刑を執行された加藤智大元死刑囚による2008年6月の東京・秋葉原無差別殺傷事件は、まさにそんなケースだった。

 日曜昼の歩行者天国にトラックで突っ込み、ナイフで刺して通行人計7人を殺害、10人に重軽傷を負わせた事件には、日本中が衝撃を受けた。

 一方で、当時25歳の彼はバブル経済崩壊に伴う「就職氷河期」で非正規雇用の職を転々とし、インターネットの掲示板に「負け組は生まれながらにして負け組」などと書き込んでいた。その社会からの孤立と、さいなまれていたであろう孤独感にも驚かされた。

 就職氷河期は1993~2004年とされ、この期間に就職活動をした1974~83年生まれが「氷河期世代」と呼ばれる。この世代の大卒と高卒の平均就職率は、それぞれ69・7%と70・9%にとどまり、氷河期を除く85~2019年の平均就職率より大卒で10ポイント、高卒は7ポイント低かった。

 82年生まれの加藤元死刑囚が起こした秋葉原事件は、死刑か否かの裁判こそ注目されたものの、氷河期世代の社会的孤立に思いをめぐらし、その対策を講じるきっかけとはならなかった。

 氷河期世代の男性の正規雇用比率は、30歳前後でも、1954~63年生まれや64~73年生まれの世代と比べて10ポイント程度低く、40歳前後になった頃でも54~63年生まれとは7ポイント弱の差があった。

 政府が不本意な非正規雇用で働く人や職に就けない人が多いとようやく気付いて「就職氷河期世代支援プログラム」を策定したのは、2019年6月。少なくとも非正規雇用の50万人と無職の100万人を支援の対象とした(データなどは内閣府の報告書による)。

 しかし翌7月18日、京都市の京都アニメーション第1スタジオにガソリンがまかれて放火され、36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った事件で逮捕、起訴された青葉真司被告も、氷河期世代の1978年生まれだった。支援プログラムが遅きに失したのは明らかだろう。

 さらに今年7月8日、奈良市で参院選候補の応援演説をしていた安倍晋三元首相が射殺された事件で現行犯逮捕された山上徹也容疑者も、80年生まれの氷河期世代だが、彼には支援が届いていなかったようだ。

 加藤元死刑囚、青葉被告、山上容疑者は、母親がそれぞれ幼少期に異常なしつけをした、離婚した、旧統一教会への献金で財産をなくしたという違いはあるものの、正規雇用にたどりつけないまま職を転々とし、孤立と孤独の果てに事件へ至ったという点は共通している。

 秋葉原事件で支援が必要な氷河期世代の存在に気付き、早期に対策をスタートさせ、青葉被告と山上容疑者が社会に居場所を見つけるなどしていれば―。もしかしたら二つの事件は起きなかったかもしれないと思うと、悔やまれてならない。

 新聞用に2022年8月2日送信