ネット相談で心のケアを 心理士と精神科医が連携 「マイシェルパ」始まる

2022年10月11日
共同通信共同通信

 日々の生活で家族や友人に打ち明けにくい悩みを抱えることは誰にでもある。そんな時にメンタルヘルスの専門家にネットで相談して適切なアドバイスが得られる有料サービス「マイシェルパ」を、「奈良こころとからだのクリニック」(奈良県橿原市)の松本良平院長が始めた。臨床心理士と精神科医がタッグを組んで、心のケアの需要と供給のギャップを埋める狙い。個人ごとの相談に加え、社員の健康維持のために利用する企業も増えている。

心の悩みをネット相談できる「マイシェルパ」のサービスを始めた松本良平さん
心の悩みをネット相談できる「マイシェルパ」のサービスを始めた松本良平さん

 

 ▽1300万人
 精神科医の松本さんは、橿原市を中心に外来診療と訪問診療を組み合わせたケアを提供する。うつや統合失調症、認知症にも対応する。医師や臨床心理士、看護師らのチームが月に約3千件の診療をこなすが「ニーズに十分に応えられているとは言えない」と話す。
 背景にあるのが心の病気になる一歩手前の人たちだ。推計では世界人口の10%以上が何らかのメンタルヘルスの課題を抱えているとされる。放っておくと症状が悪化して長期間の精神科受診が必要になる。早めの対処が必要だ。
 「国内では1300万人以上がケアを必要としている計算」と松本さん。「ただ精神科医の数は1万人程度と限られ、実際の受診者は350万人にとどまる。需要と供給のギャップが大きい」と指摘する。
 ▽人材活用
 「みんなにケアを行き届かせるにはどうしたらいいだろう」。松本さんは国内に3万人以上いる臨床心理士の人材を活用する仕組みを考案した。
 臨床心理士は児童相談所や学校、病院などでカウンセリングに従事するが、精神医療の現場では認知行動療法の実施などに活躍が限られている。十分な臨床経験を持つ人もおり、ネットを通じて悩みを持つ人のカウンセリングを担ってもらえれば対応の窓口が広がる。医師の治療が必要な場合は外来受診につなげてもらう。
心の悩みをネットで相談できる「マイシェルパ」のスマホ画面(松本良平さん提供)
心の悩みをネットで相談できる「マイシェルパ」のスマホ画面(松本良平さん提供)

 

 2015年に国家資格として新設された公認心理師を含めると潜在的な人材は5万人以上に増える。カウンセラーとして登録する際には、精神疾患の概念や薬の使い方について十分な研修を受けてもらい、ケアの質を担保することにしている。
 ▽伴走者
 松本さんは株式会社マイシェルパを設立し、21年に同名のサービスを始めた。パソコンやスマートフォンで会員登録すると相談可能な日時を選ぶことができる。予約するとオンライン面談のリンクが届く。人に聞かれたくない内容でもネットがつながる環境ならどこでも話せる。
 個人の相談は50分間で6600円。事前に無料の利用案内を受けることもできる。カウンセラーは数十人おり、性別や専門分野から自分に合った人を選べる。
 また国内の企業数十社と従業員の数に応じて月額料金を払ってもらうカウンセリング契約を結んだ。契約企業の従業員は何度でも好きなだけ相談できる。カウンセリングで仕事の生産性や暮らしの満足度が向上したとの海外報告もあり、企業側のメリットも大きい。
 サービスの名称は、ヒマラヤ登山などで水先案内人を務めるシェルパ族にちなむ。「ストレスにあふれた世の中では道を見失うこともある。時には重荷を背負い、時に道しるべとなる伴走者でありたいという思いを込めた」と松本さん。「学校や職場での悩みや人間関係のトラブルなど小さなことでも気軽に話せる場として利用してほしい」と話す。(共同=吉村敬介)