不利益防ぐ法整備急げ  ゲノム医療推進に不可欠  識者評論「遺伝差別の防止」

2022年09月01日
共同通信共同通信

 病気の診断や治療に遺伝情報を活用する「ゲノム医療」が進んでいる。ゲノムは個人が持つ全ての遺伝情報を指す用語で、その特徴を基に病気を診断したり、適切な治療を選んだりできるとして、政府も積極的な推進に乗り出している。しかし、遺伝情報を活用する際に欠かせない、差別や不適切な取り扱いを防ぐ仕組みづくりは遅れている。早急に法律を整備する必要がある。

 米国やフランス、韓国などは10年以上前に遺伝情報に基づく差別を禁止する法律を制定している。日本でも問題はあった。2005年、難病で要介護状態となった人からの保険金の支払い請求を損害保険会社が拒否したことを巡る裁判があり、保険金を支払わない条項の一つに「先天性異常」を定めることを容認する判決が出た。17年には、一部の生命保険会社の契約内容を示す約款に遺伝に関する記載があると報じられ、批判された。

 それでも、日本ではなかなか関心が高まらなかった。昨年、超党派の議員連盟がゲノム医療を適切に推進するための法案をまとめ、差別の禁止も盛り込んでいたが国会提出には至っていない。

 一方で、今年に入ってから医学界や患者団体による動きがあった。日本医学会は今年3月、病気の原因に関わる遺伝子を調べる検査や診断の指針を改定し、保険や就労、結婚などさまざまな場面で遺伝情報に基づく差別や不利益を防止するための項目を設けた。4月には、日本医師会と共同で、遺伝情報に基づく差別や不利益を防ぐ法律の整備を国に求める声明を発表。患者らの団体も国や各省庁に対し、法整備や対策を求める声明を出した。

 その後、生命保険協会と日本損害保険協会は5月に「会員各社は保険の引き受け・支払い実務の際に(遺伝情報の)収集や利用を行っていない」とする医療従事者向けの文書を公表した。あらゆる業界の先陣を切って公に説明をしたのは歓迎すべき行動だ。製薬企業や検査会社、結婚相談所など遺伝情報を扱う可能性がある他の業種も「差別的な取り扱いをしない」と表明してほしい。

 ゲノム医療は多くの人からデータを得ないと成り立たない。ゲノム医療の推進と、差別や不利益を防ぐ仕組みは両輪だ。遺伝的な特徴で人権や基本的自由を侵害してはならないという考えは、1997年の「ヒトゲノムと人権に関する世界宣言」で国際的に合意され、日本政府も2000年、人の尊厳や人権を損なわずに研究を進めるための「ヒトゲノム研究に関する基本原則」を作った。だが、多くの人が自分にどんな権利があって、どう守られるのかを知らないのが現状だ。

 まず差別的な取り扱いを禁じる理念法を作り、その後具体例を集めてどんな行為が差別とみなされるかを検討するのがよい。法律ができれば、自治体や学校で教育や啓発をする根拠にもなる。

 厚生労働省の研究班として17年に実施した調査では、約3%の人が遺伝情報を理由に差別的な扱いを受けたと答え、今年の調査でも同程度だった。一方、医療従事者の守秘義務の強化や、保険や就労での遺伝情報の利用を認めない法規制は半数程度が求めており、問題意識は高まっていると感じる。問題が深刻化しないうちに差別を防ぐ法律や仕組みを作らなければいけない。

(新聞用に2022年7月27日配信)

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