歴史を掘り起こした   チームが勝ってこそ価値  視標「大谷が104年ぶり偉業」

2022年08月31日
共同通信共同通信

 104年ぶりの快挙だという。米大リーグ、エンゼルスの大谷翔平選手が10勝目を挙げ、1918年のベーブ・ルース以来となるシーズン「2桁勝利、2桁本塁打」を達成した。

 「ダブル2桁」に現代的な意義を見いだすのは難しい。あえて言えばルースの偉業を現代によみがえらせた。つまり、大谷によって伝説に光が当たり、歴史を掘り起こした点に意味がある。

 米メディアでは、この記録はあまり話題に上らない。明らかな要因の一つは、2桁本塁打の価値が104年前と違い過ぎることだ。18年のルースは11本で本塁打王となった。2桁本塁打の選手は2人だった。

 だが今シーズンは既に2桁本塁打は100人を超す。昨季46本の大谷選手の「2桁」を重要視しないのは当然だろう。

 説明が必要なのは、2桁勝利への評価である。大谷選手は渡米後初の10勝によって投打の「2桁」を達成したが、現在の大リーグは投手の個人記録としての「勝利」への関心が薄い。

 昨季の大リーグで唯一20勝を挙げたのはウリアス投手(ドジャース)だ。20勝3敗、防御率も2点台。だが全米野球記者協会の会員によるサイ・ヤング賞(最優秀投手賞)投票ではナ・リーグの7位だった。日本の野球ファンは信じられないだろう。

 サイ・ヤング賞は11勝5敗のバーンズ投手(ブルワーズ)で、9勝10敗のウッドラフ投手(ブルワーズ)でさえ5位。イニングあたりに許した走者数や被本塁打率など投手の実力をより反映するとされる数字が重視された。

 かつて専門家の領域だった指標が一般的な評価に反映された結果であり、日米の見方に隔たりが生じていると言える。その結果、投手の勝利数は、それ自体では評価されにくく、2桁勝利だけでは注目を浴びにくいのである。

 クッツタウン大のコンジェリオ准教授(データ分析学)らが運営するサイト、TTFベースボールは、選手の能力を測るのに最も頼りにならない数字として投手の勝利数を挙げる。打線の援護と救援投手の実力という先発投手本人に全く関係ない部分に多くを委ねているためだ。

 エンゼルスは9日現在、得点がア・リーグ15チーム中13位。救援投手の失点は5番目に多い。チームは低迷しているだけに「よくぞこのチームで達成した」と2桁勝利の価値は上がるという見方もあろう。だが米国の記者たちは、既に大谷の投手としての実力は証明済みとみている。

 その一例が前半戦最後の16試合。エンゼルスは3勝13敗だったが、全白星を一人で挙げたのが投手・大谷である。「オータニだけ」は米国でも大きく取り上げられた。2桁という数字でなく、投手として勝利を生むパフォーマンスが評価を得ているのである。

 松井秀喜選手がヤンキースでプレーしていた2003年、クレメンス投手の通算300勝達成を取材する機会があった。当時既に監督として通算1500勝に達していたトーリ監督は、エースの300勝について「いい記録だ。チームの勝利に100%つながっている」と力説した。

 野球がチームの勝敗を争う以上、個人成績を積み重ねたチームの勝利にこそ価値があることを強調したのである。

 (新聞用に2022年8月11日配信)