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コロナで国際格差浮き彫り 医薬品の特許交渉続く パンデミック条約も議論

2021.11.9 0:00
 新型コロナウイルス感染症は富める国と貧しい国の格差を浮き彫りにした。日本などの先進国と比べてアフリカなどの発展途上国はワクチン接種が大きく遅れている。国際格差をなくして途上国が医薬品を入手しやすいように知的財産権のあり方を見直す交渉が続く。今回のコロナ拡大を止められなかった反省を生かし、次の世界的大流行に備える「パンデミック条約」など新たな多国間協力の枠組みの議論が始まっている。
ケニアの首都ナイロビで新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける男性=8月(AP=共同)
ケニアの首都ナイロビで新型コロナウイルスのワクチン接種を受ける男性=8月(AP=共同)

 

 ▽地政学的変化
 「アフリカの人々は世界から置き去りにされている」。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は9月、ワクチン接種の遅れに懸念を表明した。
 アフリカ疾病対策センターによると、ワクチン接種を終えた人は全体の4%。国民の半数以上が接種を完了した日本などと大きな隔たりがある。
 国際協力で途上国にワクチンを行き渡らせる枠組み「COVAX」があるが、資金不足で供給が遅れている。最近はCOVAXでの中国の存在感が増し、供給ワクチンの一定割合を中国製が占めるようになった。
 「先進国が当初思い描いていた姿とはかけ離れた状況になっている」とNPO法人「アフリカ日本協議会」の稲場雅紀国際保健部門ディレクター。「世界で進む地政学的な構造変化が、途上国へのワクチン供給に反映されている」と語る。
 ▽ゆがんだ市場
 きっかけは今年春にインドで起きたデルタ株の大流行。英アストラゼネカ製ワクチンをライセンス生産する地元企業からCOVAXへの供給がストップした。一方、中国は着々と供給を拡大し、東南アジアや中南米、中東に足がかりを築いた。
 日本は計6千万回分のワクチン提供を表明。これまで台湾や東南アジア、太平洋州に供給している。ただ稲場さんは「地域人口からすると“大海の一滴”。先進国としての責任を果たすには支援の考え方を変える必要がある」と話す。
NPO法人「アフリカ日本協議会」の稲場雅紀・国際保健部門ディレクター
NPO法人「アフリカ日本協議会」の稲場雅紀・国際保健部門ディレクター

 


 効果が高い「mRNAワクチン」のほとんどを先進国が独占したのも途上国の不満の種だ。稲場さんは「製薬会社が生殺与奪の権限を握るゆがんだ市場メカニズムが背景にある。先進国の一員である日本も調達に苦労している」と指摘する。
 ▽巻き返し
 1990年代のエイズ流行でも製薬会社の特許が壁になり、アフリカの国々に高価な治療薬が行き渡らなかった。その後、公衆衛生上の危機が生じた際には途上国が特許を行使できる規定が世界貿易機関(WTO)で合意された。だが適用範囲を巡って先進国と綱引きが続いており、コロナで問題が再燃した形だ。
 WTOでは昨年、コロナワクチン特許の一時放棄などを求める提案が途上国から出された。米国が支持を表明して交渉が活発化したが、英国やドイツなどの反対が根強く先行きは見えない。
 一方、mRNAワクチンを途上国で製造する能力を整えるため、WHOは南アフリカに技術移転の受け皿となる拠点を置く構想を打ち出した。稲場さんは「『ワクチンギャップ』に対するアフリカの巻き返しが少しずつ進む」と話す。
 「コロナ後」を見据えた議論も進む。WHOの独立委員会は今年5月、コロナを「最後のパンデミック」とするため、感染症の脅威に迅速・効果的に対処する多国間の仕組みづくりを求める報告書をまとめた。医薬品の国際格差解消も強く求めた。
 11月からはWHOの特別会合で「パンデミック条約」制定に向けた交渉が始まる。稲場さんは「守るべきは一人一人の『人間の安全保障』。途上国や市民社会、当事者の声を反映する必要がある」と語る。(共同=吉村敬介)

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