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見えてこない「大人の存在」 彷徨う日大フェニックス

2021.10.5 14:05 宍戸 博昭 ししど・ひろあき
法大戦で選手に指示を出す日大の藤巻辰崇コーチ(右)と平本恵也ヘッドコーチ(右から2人目)=撮影:横田航洋
法大戦で選手に指示を出す日大の藤巻辰崇コーチ(右)と平本恵也ヘッドコーチ(右から2人目)=撮影:横田航洋

 

 自立した学生たちが、戸惑いを隠せないコーチ陣をリードして試合に臨み、そして勝ちにいく。過去に見たことがない、珍しい光景だった。

 

 10月3日。東京・アミノバイタルフィールドで行われた、関東大学リーグ1部TOP8の注目の一戦で、昨季の関東王者・日大はライバル法大に28―35で敗れた。

 

 憮然とした表情でロッカールームに引き揚げてくる選手たちに、何と声をかけていいのか分からず呆然と立ち尽くすコーチ陣の姿が、今の「フェニックス」を象徴していた。

 

 8チーム総当たりのリーグ戦ではなく、昨年に続いて2ブロックに分かれての変則リーグでの大事な初戦を落とした日大は、目標としていた大学日本一を決める「甲子園ボウル」出場が極めて難しくなった。

 

 橋詰功前監督(立命大OB)から9月1日付でチームを引き継いだ、日大OBの平本恵也ヘッドコーチ(HC)は試合後、報道陣に囲まれ声を詰まらせてこう言った。

 「自力での甲子園ボウル出場が…学生には申し訳ない気持ち。何をしてもこの結果は変わらない。この後の試合を、自分たちらしく戦いきるしかない」

法大戦の後の囲み取材で質問に答える日大の平本恵也ヘッドコーチ=撮影:横田航洋
法大戦の後の囲み取材で質問に答える日大の平本恵也ヘッドコーチ=撮影:横田航洋

 

 平本HCが悔やんだのは、前半の終わり方だった。第2クオーター残り28秒に、飛距離、安定感とも抜群のK/P高橋寛太選手が25ヤードのFGを成功させ、13―14と1点差に詰め寄った。

 しかし、前半終了間際に法大にスペシャルプレーでTDを許し13―21とされた。

 平本HCは「僕の判断ミス。あの場面は、時間を使い切らないといけなかった。悔やんでも悔やみきれないが、あそこが今日の試合の全て」と自らを責めた。

 

 QBに1年生の金澤檀(かなざわ・まゆみ)選手を起用したのも、QB出身である平本HCの決断だ。「金澤は、僕が来てから一番成長した選手。本人も覚悟を決めて、活躍してくれた」

 確かに1年生とは思えないプレーでオフェンスをリードしていた金澤選手は称賛に値する。

 

 日大ではエースナンバーの「10」を背負い、Xリーグの強豪・富士通でも活躍した平本HCだが、指導者としての経験はほとんどない。

 わずか1カ月でチームを掌握するのは大変な作業だったはずだ。コーチ陣と十分なコミュニケーションを図る時間はなかっただろう。

 

 平本HCは試合を進める上でのスキームの問題として明言しなかったが、フィールドにいる選手へのサインの伝達や選手交代のルールなどは、前体制のノウハウを踏襲しているように見えた。

 「ベンチは観客じゃないよ。もっと集中しよう」「一喜一憂しないよ」といった控え選手の声も然り。マネジャーを含め、チームの一体感を高めようとする雰囲気も、甲子園ボウルに出場した昨シーズンと同じだった。

法大戦で日大オフェンスをリードしたQB金澤檀選手(8)=撮影:横田航洋
法大戦で日大オフェンスをリードしたQB金澤檀選手(8)=撮影:横田航洋

 

 昨年の雪辱を果たした、法大の有澤玄HCは言う。

 「コーチ陣が代わったからといって、チームが急に変わることはない。少しでも前に出ようとするRBのセカンドエフォート、レシーバーのランアフターキャッチは素晴らしく、橋詰さんの教えが生きていると感じた。今日も日大は強かった」

 

 シーズン直前での体制転換がもたらしたプラス面は、残念ながら一つもない。こういうときに必要な「大人の存在」が見えてこなかったからだ。

 今季を占う大切な試合なのに、部長ら大学側の責任者の姿は確認できなかった。3年前の不祥事の際に誓った「学生ファースト」という言葉がむなしく響く。

 

 ただ、34歳とまだ若い平本HCには凜とした雰囲気がある。言葉の選び方に知性を感じさせるのも、学生にとっては魅力だろう。

 「フェニックスを率いる大変さは、想像していた通り。僕が選手という立場で考えていた試合運びはできるが、今の立場でやるのは難しい」と正直に打ち明ける。

 

 平本HCは1年契約だという。それは、日大の他の競技スポーツ部の指導者も同じだそうだ。

 「やらせてもらえるなら、つなぎではなく腰を据えて中長期的な視野で指導していきたい」。初陣での苦い経験を生かす才能とポテンシャルが、平本HCにはあると信じている。

力感あふれる走りでゲインを重ねた日大RB柴田健人選手(26)=撮影:横田航洋
力感あふれる走りでゲインを重ねた日大RB柴田健人選手(26)=撮影:横田航洋

 

 学生スポーツは一年一年が勝負。「大人の事情」が優先し、学生への配慮が二の次になるような状況は避けなければならない。

 彷徨う不死鳥を立て直すためには、平本HCをいかにサポートできるかが最大の鍵になる。

宍戸 博昭 ししど・ひろあき

名前 :宍戸 博昭 ししど・ひろあき

プロフィール:1982年共同通信社入社。運動記者として、アトランタ五輪、テニスのウィンブルドン選手権、ボクシングなどスポーツ全般を取材。日本大学時代、「甲子園ボウル」にディフェンスバック、キックオフ、パントリターナーとして3度出場し、2度優勝。日本学生選抜選出。NHK―BSでNFL解説を20年以上務めている。

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