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ガバナンス阻害、経産に責任   視標「東芝の調査報告書」

弁護士 久保利英明

 東芝の筆頭株主であるエフィッシモ・キャピタル・マネージメントは、2020年7月に開催された定時株主総会の公正性調査のため、東芝に臨時総会開催を請求し、今年3月の臨時総会では、会社法に基づく会社業務等の調査者選任議案が海外勢の支持を受け、原案通り可決された。

 調査者として、東芝からも請求株主からも独立した弁護士が選任され、①議決権集計の不正②株主の議決権行使に関する東芝や経済産業省からの不当な圧力の有無―が調査対象とされた。

 調査報告書では、①について、先付処理(総会集中期に通常より1日早く配達してもらい、配達記録は配達日翌日とする郵便局との取り決め)により、議決権行使書の一部が集計されなかったことへの東芝の主体的関与は否定された。

 しかし②は、東芝がエフィッシモの株主提案取り下げに加え、経産省と連携して提案株主や米ハーバード大基金運用ファンド(HMC)の議決権行使を妨げようと画策したとして、定時総会は公正に運営されなかったと認定された。

 また東芝は、新型コロナウイルス禍で重要事業の維持や経営陣の安定を願う経産省(特に商務情報政策局)と緊密に連携したこと、エフィッシモを排除すべきアクティビスト(物言う株主)とみなし、同局を利用して株主提案を行使させず、行使後には取り下げを画策したことも認定された。

 これは株主に提案権を認め、多数決で勝敗を決する会社法の「おきて破り」である。ガバナンス(企業統治)の原点である株主権行使を妨害する「禁じ手」とも言える。

 東芝では、15年に会計不正が発覚。米原発子会社の経営破綻で、17年には、5500億円の債務超過に追い込まれ、東京証券取引所2部へ降格された。上場廃止を回避するため実施した6千億円の第三者割当増資の結果、海外ヘッジファンドのシェアが激増した。

 アクティビスト対策として、18年4月に車谷暢昭氏を会長兼最高経営責任者(CEO)に招聘(しょうへい)した効果はなく、臨時総会で今回の調査員選任議案が可決され、英投資ファンドCVCキャピタル・パートナーズなどによる買収提案の唐突な表面化で車谷氏は辞任した。

 報告書で認定された不正行為は、ガバナンス不全から弥縫(びほう)策を繰り返して来た東芝の窮余の一策であった。6月25日の定時総会で取締役会議長らの再任が否決されたのは、その責任の一端を追及された形だ。

 一方、報告書は東芝経営陣からの提案株主や経産省への働きかけを証拠により明らかにしたが、経産省のエフィッシモなど提案株主に対する行動、HMCへのアプローチや要請について確定的な証拠の提示はなく、調査弁護士の推認や伝聞証拠の引用が大半である。

 だが経産省の協力がなく、調査に限界があるのは無理もない。

 経産省が報告書の記載を否定するのであれば、自ら第三者委員会を設置するなどして真相を明らかにする責任がある。

 経産省はガバナンス改革の推進役であった。その経産省が自ら株主に圧力を加えて、株主によるガバナンスを阻害したとすれば、東芝だけの問題ではなく、日本国の民主的な資本主義の否定につながりかねない。

 ガバナンスとは「株主による経営者への統制」のことである。ガバナンスを指導してきた経産省が、この大原則を理解していたのか否か、が問われている。

 (2021年7月1日配信)

プロフィール:くぼり・ひであき 1944年埼玉県生まれ。71年弁護士登録。第二東京弁護士会会長や大宮法科大学院大教授などを歴任。数多くの企業で社外取締役や第三者委員会の委員長を務めてきた。

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