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規制強化、国際潮流に逆行   視標「大麻使用罪」

弁護士 亀石倫子

 先進各国が大麻の合法化や規制緩和にかじを切る中、厚生労働省は大麻取締法にこれまでなかった「使用罪」の創設を検討しているが、こうした規制強化は明らかに国際潮流に逆行する。本当に刑罰が妥当なのか、最新の知見を踏まえて正面から議論するべきだ。その結果、現行の規制を続けるとしても、新たな罪を設けて犯罪者をつくりだすことには、極めて慎重であるべきだ。

 薬物政策で重要なのは、使用による本人や社会への害を軽減する「ハーム・リダクション」の視点だ。刑罰が正当化されるかどうかは害の大きさによって決まるべきだ。アルコールにもニコチンにも依存性や健康への害はある。だが、所持や使用を犯罪として取り締まるより、依存症への治療や支援に税金を使った方が本人にも社会にも害が少ないとの判断で現在の規制は成り立っている。

 私は弁護士として多くの薬物事件の弁護を担当してきたが、覚醒剤と大麻の使用者は明らかに異なるというのが実感だ。覚醒剤の場合、接見に行ってもろれつが回らなかったり、幻覚により2次犯罪を起こしたりしているケースも多い。

 一方、大麻を個人使用するために所持した者は普通の学生や勤め人など社会の通常の一員という印象だ。逮捕や勾留により社会的に抹殺したり、刑務所で隔離したりする必要性は認めがたい。自分は使用経験は全くないが、弁護士としての経験や諸外国での規制緩和を見てそう確信するに至った。

 大麻が解禁されれば犯罪が増えるという懸念は一部に根強い。だが、米国で2012年に最初に娯楽用大麻を合法化したコロラド州とワシントン州の19年の追跡調査では、合法化前と後で暴力犯罪などに顕著な増減はないと結論付けている。

 大麻自体に害は少ないが、より害の大きな薬物への入り口になるため規制が必要だという「ゲートウエー仮説」もある。だが、これは大麻が禁止薬物と位置付けられているため、密売人から入手せざるを得ない事情が大きい。密売人は通常、より利幅が大きく依存性の強い薬物を勧めてくるからだ。

 酒やたばこと同じように、あるいは米国の多くの州やカナダが大麻で講じているように、当局が適切に管理、課税すれば、犯罪組織が関わる余地はなくなる。酒よりも強い刺激を求めて覚醒剤に手を出そうとは普通は思わないように、大麻を入り口たらしめているのは、それを違法としている社会の在り方だ。

 大麻の厳罰化では誰ひとり幸せにならない。捜査や刑務所での矯正で税金が無駄に使われるだけで、せいぜい取り締まり当局の権益確保にしかならない。思考停止から抜け出し、エビデンス(科学的根拠)に基づいて規制をアップデートすることこそがむしろ求められている。(聞き手は共同通信編集委員 井手壮平)

 (2021年6月25日配信)

プロフィール:かめいし・みちこ 1974年北海道生まれ。2009年弁護士登録。令状なく衛星利用測位システム(GPS)端末を取り付けた捜査の違法性が最高裁で認められた事件などを担当した。

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