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「五輪時想」 変わるマラソン風景

2021.8.7 12:00 共同通信
競歩とマラソンの開催準備が進む札幌市の大通公園=7月30日
競歩とマラソンの開催準備が進む札幌市の大通公園=7月30日
 今年の五輪取材の特徴は、画面を通じて競技を見る頻度の高いことだ。テレビ放送の仕事が長かったせいか、勝敗の行方に加えて提示の仕方にどうしても目が行ってしまう。
 スクリーンから訴えかける手段の中心は映像、それも大遠景から超接近まであらゆるものが用意されている。設置されるカメラは近年、想像を超える台数になった。
 陸上競技のトラック種目だけでも36台。そのうちの3台はフィニッシュラインの延長上にくつわを並べるように配置されている。メダル候補を個別に捉えてスーパースローを出す機器は、個々の技術だけでなく勝負が決着する前後に見せるありのままの表情を映し出す狙いがある。
 札幌で行われるマラソンでは、カメラは合わせて21台。2機のヘリコプターにバイクカメラが6台。ただし選手と並走する中継車は1台だけで、比較的小型のものとなったのは、映像を見る側が選手を捉えやすいようにするためなのだろう。
 国内のロードレースでは今回初めて、白バイが選手の前を走らないことになった。法律によって行われてきた警察車両の先導に抵抗したのは世界陸連だという。「並走するにしても、先頭ランナーの後ろに回ってもらいたい」。売り物のレースが、黒子であるはずの車両に隠されたくないという本音なのだろう。
 白バイは先頭集団の後方で見守るようだ。私たちが見慣れたマラソン風景は札幌で様変わりすることになる。
 勝負の機微とそこに勇躍する人の感情の起伏を届けるために、映像が工夫を重ねる。その一方で、主人公の声を引き出すインタビューはどうだろう。決めの言葉を拾い、強い決意を口にさせたい。あらかじめ聞き手自身が書いた台本も時には捨てなければならないことがある。
 黙って戦ってきたオリンピアンが胸の内をちょっとだけのぞかせる貴重でわずかな時間に、主役の心情を引き出せるか否か。現場で働くチャンスを得たインタビュアーが、新型コロナウイルス禍で無観客になり、会場で観戦できない日本中の人々の心中をおもんばかれるかどうかにも関わっている。(法政大教授 山本浩)