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死の危機にさらされた競技 テニスで熱中症

2021.7.30 13:03 共同通信
テニス男子シングルス3回戦の試合中に、治療を受けるROCのダニル・メドベージェフ=28日、有明テニスの森公園
テニス男子シングルス3回戦の試合中に、治療を受けるROCのダニル・メドベージェフ=28日、有明テニスの森公園
 「試合は終えられるかもしれないが、死ぬかもしれない。死んだら責任を取れるのか」。28日のテニス男子シングルス3回戦をフルセットの末切り抜けた世界ランキング2位のダニル・メドベージェフが、試合中に審判に伝えたとされる発言が東京五輪に波紋を広げている。
 ▽スペイン選手も棄権
 28日の東京都内の最高気温は32・0度、午前11時の湿度76%。数字は高いが、いつもの夏である。しかし、こと会場の有明テニスの森公園では状況がやや異なる。ハードコートで、太陽の照り返しがきつい。気象庁が計測する東京都内の気象条件と同じにはならない。さらに有明コロシアムはすり鉢状で風が通らない。そんな場所でメドベージェフの試合は午前11時開始。いわばサウナの中で2時間半も戦ったのだ。“死”に直面したと感じたのも当然かもしれない。
 この日はスペインの女子選手も試合途中で棄権し、車いすで会場を去った。ボールパーソンも倒れた、と伝えられてもいる。いずれも熱中症とみられる。
 日本の暑熱は以前から危険視された。マラソンや競歩が札幌に移ったのもそのためである。ただテニスの危険度は一部にしか共有されていなかった。日本スポーツ振興センター(JSC)が真夏の三重県四日市市のハードコートで模擬試合を行い、アイスベストなどの有効性を検証したが、危険度が世界に周知されたとはいえない。
 南半球の真夏に開催される全豪オープンは有明と同じハードコートだが、「暑熱対策」が前から定められ、気温40度を超すと屋根のないコートでの試合は中止されるなど先例はある。しかし、東京五輪では暑熱に湿度が加わるのに、最終セット前にシャワーを浴びることもできる10分間の休憩があるだけ。国際オリンピック委員会(IOC)をはじめ、国際テニス連盟、大会組織委員会も感度が鈍かったと言わざるを得ない。
 ▽「夜に移して」
 競技が始まってすぐに世界ナンバーワンのノバク・ジョコビッチが試合時間を夜間へ変更するようアピールしたが、取り上げられなかった。終盤まで試合開始は午前11時に設定されたままだった。優先されたのは競技運営だろうが、米国東部時間のプライムタイムに当たるテレビへの配慮を邪推したくなる。開始を午前9時などに早め、真昼のデーセッションを取りやめて夕刻近くから再開する、などの柔軟性が必要だったろう。世界トップ選手が熱中症で倒れては五輪に傷が付く。ようやく29日から試合開始が午後3時に変わった。
 IOCの医事部長は29日の会見で「場所によって起こり得ること。われわれは氷、日陰、(アイス)ジャケットを用意している」「明確な規則があるじゃないか。気温が30度を超したら10分間のブレークがある。もし32度超ならストップされる」「われわれは日本の専門家と連携を取り、緊急事態に対応できるが、一番目指しているのは防護だ」と強気な姿勢を崩さなかった。
 新たな開始時間で始まった29日。男子シングルスの錦織圭は、第2試合の準々決勝でジョコビッチと対戦。2014年の全米オープン準決勝で勝って以来、不戦敗を含む16連敗中の世界のトップに立ち向かったが、ベスト4進出と2大会連続メダル獲得の夢はジョコビッチの堅守の前に散った。日没前後の夕刻の試合では、ジョコビッチに命も試合も危機と感じさせることはなかった。(共同通信・小沢剛)