メニュー 閉じる メニュー

ポリオ根絶の足踏み懸念 コロナで国際支援に不安 ワクチンの役割大きく

2021.6.29 0:00
 新型コロナウイルスが世界を席巻する中、根絶まであと一歩のところで足踏みしている感染症がある。子どもを中心に手足のまひを引き起こす「ポリオ」だ。アフガニスタンとパキスタンなどの発展途上国で制圧に向けたワクチン接種が続く。ただ先進国がコロナ対策に躍起になるあまり、途上国への支援が弱まって再びポリオが勢いを取り戻す懸念も出ている。
パキスタンでポリオワクチンの接種を受ける女児=2020年7月(ロイター=共同)
パキスタンでポリオワクチンの接種を受ける女児=2020年7月(ロイター=共同)

 ▽小児まひ

 人類とポリオの付き合いは長い。古代エジプトの壁画や日本の縄文時代の人骨にも症状の痕跡が残る。
 原因となるポリオウイルスは口から入って腸などで増え、便に排出されて水や食物を通じて感染を広げる。多くは無症状だが風邪に似た症状が出ることがあり、200人に1人に手足のまひが起きる。呼吸困難で死亡する場合もあり、後遺症に苦しむ人もいる。子どもに多く「小児まひ」とも呼ばれる。
 20世紀には世界中で流行が起きた。米国では1952年に6万人近い患者が出て3千人超が死亡。国民に恐怖が広がりプールや映画館が閉鎖された。日本でも終戦後にたびたび流行し、60年には大きな流行が起きて全国で6千人以上の患者が出た。
 予防のためのワクチンが登場したのは55年。米国で接種が始まり、改良されながら世界に広まった。世界保健機関(WHO)によると、88年に35万人と推計されたポリオ患者は2019年に175人に減少した。
 ▽途上国で接種
 世界で初めて実用化されたのがホルマリン処理でウイルスの病原性をなくした「不活化ワクチン」。米国のジョナス・ソーク博士が開発した。
 さらに効果を高めるために開発されたのが「生ワクチン」。米国のアルバート・セービン博士が生きたウイルスの病原性を弱めて作った。日本にも輸入され、途上国での接種の標準となった。
 WHOは20年、自然界にいるウイルスが引き起こすポリオについてアフリカでの根絶を宣言した。残るのはアフガニスタンとパキスタン。政情不安の中、子どもたちへのワクチン接種が続く。
 一方、ごくまれに生ワクチンに含まれるウイルスが人の腸内で増殖するうちに病原性を取り戻すことがある。こうした「ワクチン由来ポリオウイルス」の広がりを阻止するため、WHOは遺伝子操作による新たな生ワクチンを緊急承認し、途上国などでの接種を後押ししている。
ポリオワクチンを開発したジョナス・ソーク博士(ゲッティ=共同)
ポリオワクチンを開発したジョナス・ソーク博士(ゲッティ=共同)

 

 ▽特許
 ただ心配なのがコロナ流行の影響だ。WHOや民間団体が進める「世界ポリオ根絶計画(GPEI)」は昨年、途上国でのワクチン接種の一時停止を余儀なくされた。経済状況の悪化に伴って先進国の支援が弱まり、ウイルスが拡大することも懸念される。
 コロナワクチンを巡っては製薬企業に特許の一時放棄を求める議論も起きている。医薬品の価格が企業主導で決まり、途上国の手に届かなくなる懸念が背景にある。
 ポリオワクチンを開発したソーク氏は特許を取得しなかった。テレビのインタビューで「特許は存在しない。太陽に特許は存在しないでしょう」と答えたという。多くの国がポリオを制圧できたのは安価なワクチンが果たした役割が大きい。
 世界のコロナ死者は300万人を超えたが、結核では毎年140万人の死者が出続けている。東京大の坂元晴香特任研究員(国際保健)は「先進国にとってコロナは百年に一度の危機かもしれないが、途上国は結核やはしか、ポリオなどの危険な感染症に日常的に直面している。今こそ国際支援の重要性を再認識すべきだ」と訴える。(共同=吉村敬介)

最新記事