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年金の給付水準低下は防げる  核心評論「コロナ時代の社会保障改革」

共同通信編集委員 内田泰
 新型コロナウイルス禍で露呈したのは非正規労働者のセーフティーネットのもろさだ。非正規は女性に多く、影響が長引けば老後の年金が心もとない額になりかねない。

 雇われて働いているにもかかわらず、正社員が入る厚生年金は短時間雇用のパートなどには適用されず、国民年金(基礎年金)のみ。満額でも月約6万5千円(2021年度)で、コロナ禍に伴う失業や収入減で保険料未納が長引けば、将来給付はもっと薄くなる。
 
 しかも基礎年金は今後、給付水準の伸びを抑制する「マクロ経済スライド」という仕組みにより、目減りしていく。厚生労働省が19年に公表した財政検証によると、47年度まで給付カットが進み、現状の3割減となる。これに対し、厚生年金の報酬比例部分では同スライドによる給付抑制は25年度に終わる。
 
 給付抑制期間の違いは賃金の下落傾向が続いたせいだが、相対的に手厚い厚生年金で早めに終了し、基礎年金では四半世紀先まで続く点に国会でも「有権者の理解が得られない」と懸念する声が強い。昨年成立した年金制度改革関連法の付則で課題として指摘された。
 
 そこで厚労省は20年末、厚生年金と基礎年金の給付抑制の終了時期を一致させた場合の試算を実施した。いずれも33年度に終えれば、現役世代の手取り収入と比べた給付水準(所得代替率)は55・6%との結果が出た。
 
 19年財政検証では所得代替率は50・8%の見通しだったから5ポイント近い給付増だ。しかも高所得者を除き、恩恵は大半の年金受給者に行き渡るという。つまり給付抑制を厚生年金で延長し、基礎年金での終了を前倒しすると①基礎年金の水準低下を防ぎ、低所得層の給付水準を確保できる②加入する年金を問わず中間所得層の給付水準も向上する―利点があるのだ。
 
 もちろん、実現には制度改革が不可欠となる。具体的には、基礎年金の給付費用を賄う拠出金について資金配分の見直しが検討されそうだ。厚生年金と国民年金が保有する積立金残高を考慮して負担割合を案分したり、現在は加入者数を反映して費用分担しているのを平均収入に応じた形に変更したりといった改革案が考えられるだろう。
 
 ただ保険料は変わらないものの、厚生年金の積立金を多めに使うことや、高収入の会社員への給付が減ると、労働組合と財界が反対する可能性もある。基礎年金の給付増は国庫負担(税)の追加投入を意味するから財務省も尻込みしそうだ。
 
 だが考えてもみてほしい。国民年金の加入者は、かつて自営業者が中心だったが今では2割台に減り、非正規労働者や失業した人が目立つ。
 
 労使双方が保険料負担を忌避し、非正規を厚生年金から排除してきた歴史の帰結だが、所得再分配の機能は弱まり、社会全体が疲弊した。コロナ禍を視野に入れれば、将来の基礎年金給付の改善は至上命令だ。労使も財政当局も、制度改革に向け本腰を入れてはどうか。
 
(2021年3月12日配信)

 

 

 

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